完全にデキ上がったアラサー組がテーブルに伏して、もしくはごろんとその場で横になってしまった頃、俺は重い腰を上げて寝室に足を忍ばせた。
通学鞄を肩に掛け、毛布を片手にリビングへ戻ると各々それを肩から掛けてやる。
途中から何杯目か数えるのも疎ましくなったほど、二人は飲んだくれた。
それだけ日頃のストレスが溜まっているのか、それとも。
すやすやと眠っている同級生にフッと笑みを零し、俺は踵返す。
音を立てないよう移動して洗面所へ。
そこで姿を確認してみる。
いつものように映っていないかと思いきや、驚愕。
鏡には薄っすらと俺の姿が映っていた。
それも透けている箇所だけ映っている。
部分的に映るなんてなんとも言えぬホラーだけど、それでも俺は自分の姿がそこに映っている現実に嬉々を感じた。
「あ」俺はふと変化に気付く。
そっと左の手の平を鏡面に添えた。
鏡面世界の俺の手と、現実の俺の手の大きさが違う。
鏡面の手の方が大きい。
まるで成長したような手の平。
これは俺の手なのか?
それとも別人の手?
結んだり開いたりして真偽を確かめる。
俺の意思を宿したリアルの手は、鏡面の手と物事に連動している。
嗚呼、これは俺の手だ。
俺の手なんだ。じゃあなんでデッカイんだろう?
と、鏡越しに目が合った。
誰と目が合ったか、それは部屋の主。
テーブルに伏して夢路を歩いた筈なのに、彼女は俺の背後に立っていた。
鏡に映っているようで映っていない幽霊に泣き笑いする秋本は、「行く?」と声を掛けてくる。
うんっと頷いて俺は行って来ると綻び、体ごと振り返る。
「俺、家に帰らないと。どうしても、帰らないといけないから」
酒臭さを身に染み付かせている秋本は、「そう」と相槌を打って笑みを返してくれた。