肩を竦めて呆れていると、マンションの住人であろうリーマンさんが俺達を横切る。
すこぶる訝しげな眼をこっちに飛ばしているのは、傍から見て光景が不可解極まりなかったからだろう。
特定の人物以外、俺の姿が見えないんだ。
二人の会話に奇を感じても仕方がない。
だけど二人は構わず、俺を交えて会話を続ける。
リーマンさんの後に続き、マンション内に入った俺達は、彼と共にエレベータへ。
『7』のボタンを押すリーマンさん、倣って『4』のボタンを押す秋本は夕飯の手伝いはするように、と俺に話し掛けてきた。
遠藤は客だけど、あんたは客じゃないんだからね、彼女はキビキビとご命令。
今日くらいは見逃してくれてもいいじゃないか、顔を顰めたら、
「ははっ。坂本ザマァ」遠藤が茶化してくる。
4階フロアで降りた俺達の様子に、リーマンさんはさぞ思った首を傾げていたことだろう(若干青褪めていたかもしれない)。
帰宅した俺達は、まるで何事も無かったかのように過ごした。
俺は秋本のご命令で夕飯の手伝いを強いられていたし、遠藤は客人として早々と御持て成しのビールを頂戴していたし(お前。車じゃないのか?)、秋本は俺の野菜の切り方に雑すぎると文句を零してくれていたし。
目に見える体の変化に敢えて触れず普段どおり過ごしてくれる、その気遣いが俺には有り難かった。
辛気臭いまま飯を食うのは、気が引けていたから。
主菜である大好物のしょうが焼きが出来上がり、副菜もそこそこに、三人で夕食会を開始。
ご満悦にしょうが焼きを頬張っている間、二人はつまみをお供に酒を嗜んでいた。
飯よりも酒の方が進んでいるもんだから、つい「ウマイのか?」子供染みた質問を二人にぶつけてしまう。
意地の悪い笑みを浮かべるアラサー組は、口を揃えてガキには分からないと返してきた。
ちぇ、同級生じゃんかよ。
こういう時はいかんなくガキ扱いするんだからもう。
まあ、俺もアラサーアラサーって言ってるんだ。お互い様だよな。