それとも戻りたくないか、遠藤の問い掛けに俺は間髪容れず否定した。
泡のように消えるくらいなら戻りたいよ、あの時代に。
この時代で迷い込んではじめて知った、あの時代のぬくもり。優しさ。大切さ。
秋本と再会した、世話してもらった、二度目の恋をした。
遠藤と再会した、仲直りした、二度目の親友を作った。
俺がどれだけあの時代で恵まれていたか、必要とされていたか、此処にきて十分過ぎるほど教えてもらった。
だからこそ俺は二人と一緒に―…ああそうか、俺は心の底から戻りたいんだ。あの時代に。
戻るために、俺は最後の心残りを解消しないといけない。
これがきっと解消したら、俺は自分の行く末を見つめられる。
「坂本。戻るその瞬間が来たらさ」
親友は俺に視線を飛ばしてくる。
「見送ってやる。お前がちゃんとあの時代に戻れる、その瞬間を見届けてやるさ」
遠藤と視線を合わせて、「サンキュ」俺は頬を崩した。
なんとなく気分が晴れた気がする。
相手にそう伝えれば、「うるせぇよ」疎ましそうに気持ちを一蹴してくる。照れ隠しなのは分かっていた。
不安を見越してくれた親友に大きな感謝を抱きつつ、俺は時間が無いから急ごうと彼の背を叩く。これから俺は夕飯を食べなければいけない。
2011年の秋本が大好物を作ってくれるんだ。
大事な思い出として舌に秋本の手料理の味を覚えさせないと。
遠巻きに俺達を見守ってくれていた秋本も、話に決着がついたことを悟り、「あんた達って子供よねぇ」皮肉ってくる。
やり取りが15のあの頃とまったく成長していない、彼女の揶揄に遠藤が不機嫌面で鼻を鳴らした。とても心外らしい。
俺からしてみれば、どっちもガキなんだけどな。
だってアラサー組双方、15のガキに対してムキになってくる時があるもん。成熟した大人のくせに。
それを指摘すれば、「お前にだけは」「絶対に言われたくないわよ」ムキになって反論された。
そこがガキなんだって、俺の言う意味、分かってる?