そう主張しても、「ンなこと知るかよ」遠藤は短気を起こした。
「元はといえば、お前のいうご神木がすべての元凶じゃねえか! 勝手に人をすっ飛ばしておいて、もう時間がねぇからって人を消す。身勝手もいいところだ」
「え…、遠藤」
「じゃあなにか? ご神木のせいで、俺は二度も親友を奪われるのかよ!」
マンション前に響く怒声は静かな夜空へと吸い込まれる。
意表を突かれた俺は、遠藤を凝視。
15のあの頃とは比べ物にならないほど、大人びた顔つき。成長し切った横顔を見つめ、見つめて、ぎこちなく視線を逸らす。
「頼むからさ」
簡単に消えるなんて言うなよ、言葉の重みを知っている親友は腕の力を緩めてくれた。
「折角会えたのに、もう消える。そんなの辛いじゃねえかよ。俺もお前も」
それにやせ我慢するんじゃねえよ、この見栄っ張り。
キャップ帽の上から頭に手を置いてくるノッポは、俺の隠している気持ちを見透かしてきた。
口を一の字に結んで佇む見栄っ張りに対し、馬鹿だと頭を小突いてくる遠藤。
「消えるなんて俺もお前も辛過ぎるんだよ」
うわ言のように呟いた。
「だから、」
接続詞を言葉を紡ぐ親友は、軽く半透明化している俺の左足に目を落として瞼を下ろす。
「消えない。消えやしないんだ。―…お前は戻るんだ、元いた時代に」
見開かれた眼、目尻にじんわりと感情が滲む。
戻れるなんて保障、何処にもないのに遠藤は繰り返す。
1996年に戻るのだと、お前は戻ってただの中学生に戻るのだと。
スポーツ馬鹿の自分やツンデレの秋本と一緒に卒業を迎えるのだと。
そう消えない、消えやしないのだ。