発進する車、ゆるりと体が軽く揺れる。

「神社のご神木がさ」

教えてくれたんだ、お前にはもう時間がないって。

『だったら』

そのご神木とやらを切り倒せば、この事態は免れるのか?
罰当たりなことを言う遠藤に、俺はものすっごい慌てた。


今の遠藤ならやりかねない。
 

「馬鹿言うなよ!」『どっちが馬鹿だっ。くそ燃やせばいいのか』「ぶ、物騒だぞ!」『るっせぇ!』「祟られるって」『俺はその木を呪いてぇよ!』「え、遠藤」『やっぱ燃やすか』「や、やめろって!」

 
駄目だ、遠藤は完全に頭に血が上っている。
 

運転席まで聞こえるであろう俺達の会話に、秋本は子供ねぇっと肩を竦めて微笑。


男って幾つになっても子供よねぇ、能天気に笑ってくれる秋本を余所に俺は憤っている遠藤を宥めに掛かっていた。


延々続くであろうやり取りだと思われていた会話も、車がマンションに到着することで打ち切られる。

通話のまま下車した俺はスマートフォンを片手に、ビクつきながら秋本と駐車場を後にした。

重い足取りでマンション入り口に向かうと、そこには憤った阿修羅…、じゃね、親友様が仁王立ちしていたりいなかったり。


ゴクリと生唾を飲む俺は自然と秋本の背に隠れてしまう。


情けない?

馬鹿、相手は憤ったアラサーだぞ。大人だぞ。怖いじゃねえかよ。
 

ブツッ、スマートフォンから電話の切れる音が。


同時にギッとこっちを睨んでくる親友(アラサー版)。


秋本は「よっ」愛想よく手を挙げているけど、俺は超ビビッて相手の顔を直視できない。