時間は押しているけれど、夕飯だけは絶対に食べて行きなさいと彼女に強くと言われたから俺は助手席に乗り込んだ。
半幽霊になり掛けているにも関わらず、俺の腹の虫は元気に鳴いてくれているしな。
まったく、どーなってるんだ俺の体は。
透け始めても生理的欲求をするなんて。
「あら」運転席に乗り込んだ秋本は、ハンドバックから取り出したスマートフォン画面を見て目を削ぐ。
「遠藤から着信が」しかも五分おき、凄い数、目を見開いて電話を掛けた。
そういえば俺、遠藤に連絡してそのまんまだったな。あいつのことだからきっと。
「うん。うん。今から帰るところ。あんた今、私のマンション前にいるの? え、坂本? いるわよ。
……坂本、遠藤から。すっごく怒ってるんだけど」
「え、あ…おう」
マジかよ、出るの、超怖いんだけど。
恐る恐るスマートフォンを受け取って、「もしもし」俺は遠慮がちに相手に声を掛ける。
『坂本。マジ、ざけてるんじゃねえぞ!』
相手の怒声に脳みそがぐらぐら、嗚呼、耳の鼓膜が破れそう。
ちょっと距離を置いて、「遠藤あのさ」状況を説明しようとするんだけど、なあにが親友でありがとうだバカヤロウ。お前、俺にシメられたいのか? ああん? すぐツラ寄越せ、お望みどおりシメてやっから!
息継ぎなしに罵倒してくる。
もはや感服の域だ。
ここまできて喧嘩だけは避けたい。俺は落ち着くよう相手を宥める。
だけど遠藤はこれが落ち着いてられるか畜生、お前みたいな奴はいっぺん、俺がシバき倒してやる。年なんてカンケーねぇんだからな。
やっぱり息継ぎなしに罵倒。
すっげぇ、一語一句噛まないお前、マジすげぇ。
―――…嗚呼、ごめん遠藤。俺はまたお前を傷付けちまうな。ずっと探してくれていたのに。
「遠藤。俺、あんま時間が無いんだ。お前ともっと喋りたかったけどな。このままじゃ数日も経たず、消えちまう」
『消えるなって言葉は、安易に使うなって言っただろうが。ぶっ飛ばすぞ』
じゃあなんて言えばいいんだよ、他に表現が見つからないっつーの。成仏する、とか?