時間はそれを許してくれなさそうなんだ。
もう俺には時間がない、持って数日だと彼女に伝える。ワケが分からないと彼女は首を横に振った。
馬鹿、俺を困らせるなって先生。
分かるだろ、俺は1996年から突如2011年にやって来た過去人。
15のまま此処にやって来た人間なんだ。
時間の流れに逆らってやって来た人間なんだよ。
いつかは来るとは思っていたけど…、ご神木は教えてくれた。
俺にはもう時間がない、と。
俺は数日後も経たない内に消えちまうんだ。
その証拠に特定の人間以外には、もう姿が見えなくなっている。
だから俺は堂々と此処にやって来られたんだぞ。先生。
「秋本。あのさ「嫌よ」
「俺は秋本の家にはもう帰れ「嫌よ」
「おい、話を「嫌だって言ってるでしょ!」
まるで悲鳴のように叫ぶ秋本は嫌を連呼してくる。
絶対に嫌だ。
聞かない。知らない。信じない。
駄々捏ねた子供のように言の葉を並べる彼女は、項垂れて信じないと繰り返した。
「秋本…」困惑する俺に、「坂本」私がなんであんたを探していたと思う? 秋本は弱々しく質問をしてきた。
片隅で察しはつくけど気付いちゃいけない気がした。
だから俺は何も言わない。何も言えなかった。
今しばらく黙りこくっていると、秋本がゆっくりと感触を味わう、否、確かめるように抱き締めてきた。
鼻腔に擽る秋本の匂いは良い香りがする。
「女って結構男の理想像高いのが多くてね。私、性格は勿論、面食いだったから、あんたに告白された時…、ちっともタイプじゃないって心の中で嘆いていたわけ」