「ネガティブになればなるほど、ナニをしても駄目人間だって思っちまう。お前だけじゃないって」
俺は永戸みたいに塾に通っていたわけじゃないけど、家に帰れば父さん母さんが毎日のように喧嘩していて、飛び火がこっちにきて、学校では秋本にフラれ続けて…、挙句あの日の金曜、遠藤を怒らせた。
自分のダメダメさに嫌気が差したあの日の金曜。
自分なんて消えちまいたい、居場所なんて此処にはない、馬鹿みたいに悲観的になって打ちひしがれていた。
自分なんてちっぽけだと思って落ち込んでいた。
そう2011年に来るまで。
だけどさ、1996年という月日を失ってみて分かるもんだ。
どれだけ俺、恵まれていたか、周囲にどう思われていたか。
あんなに窮屈だって思っていたのに、今は自分の生きていた時代が恋しい。
不思議だよなぁ。
…まあ、間違ったって永戸に同じ経験をしろなんて言わないけどさ。
永戸の周囲にいる人間に傷付いて欲しくもないし。
「きっとさ」
今、お前が消えたら島津は血眼になってお前を捜すと思うぞ。
俺は含みある笑みを相手に向ける。
しっくりこない顔で、「どうかな」永戸は気鬱そうに肩を竦めた。
体育系の島津に対し、文系の自分、タイプが全く違うからすぐに忘れるかも、卑屈に答えを返す。
迷惑バッカ掛けてるし、世話バッカ焼かせているし、内心飽き飽きしてるんじゃないかと溜息をついた。
永戸は頭が良い分(頭が良いって島津が言っていた)、あれこれ深慮に考えるタイプかもな。
それともこの時代の傾向か?
ブツクサと考え込むのって。
学校に塾、勉強バッカしてるから右に左に考え込むタイプなのかも。考えたところで答えなんて出ないと思うんだけどな。
「じゃあさ」食い終わったらちょっと旅に出てみようか、俺は昼飯に誘ってくれたお礼を込めて、今度は永戸を誘う側に立つ。
どういう意味だと首を捻る永戸に、意気揚々と言った。
「探すんだよ。居場所ってヤツをさ」