「15の私か、悔いなく想いを告げたいわ。今じゃ……ねぇ。私、教師だし」
「ははっ、学生と同居なんてばれたらお仕舞いだもんな。
今の時代、教師にとっちゃ超生きにくい世界だって聞くし。
まあ、坂本の咄嗟の機転で乗り切ったじゃないか。おかげでお前と俺、恋人になっちまったけど」
「いっそなっちゃう? 遠藤ならいいけど。私、バツイチなんて気にしないし」
「お前なぁ……勘弁しろって。他に好きな奴がいるくせに、心にもないこと言ってるんじゃねえよ」
「……分かってるわよ。私の好きな奴は遠藤よりも馬鹿で、無鉄砲で、無神経な同級生よ」
「おーおー、大胆告白だな。俺、お邪魔虫? 家に帰った方が……、って、おい坂本? 坂本!」
我に返って俺は視線を戻す。
数メートル先を歩いていた二人が立ち止まって訝しげにこっちを見てきた。
「悪い悪い」
駆け足で二人の下に向かう。
なんの話をしてたっけ、会話の輪に無理やり入ると「お前なぁ」遠藤に呆れられた。
なんだよ、聞いてなかったんだからしょうがないじゃん。
「で、何の話?」
まだ15に戻ったらの話か? 能天気な質問を飛ばすと、「恋人の話よ」秋本が拗ねたようにフンッと鼻を鳴らし、遠藤が意味深に溜息。
ああ、さっきの嘘っぱち話か。
だってああでも言わないと、場の空気を乗り越えられなかったじゃんか。
お前等、俺に父さん母さんって呼んで欲しかったか? それこそ怒るも怒る、激怒対象だろ? 恋人って流れが自然だって思うんだけど。
「ほら。遠藤と秋本、絵になるし」
なによりもアラサー同士だしさ、笑声交じりに意見すると、「この無神経のKY!」秋本が怒声を張った。
最低だと脹れ、大股で歩き出すもんだからワケが分からない。
なんだ、あいつ……、そんなにも怒ってどうしたよ。俺、ワルイコト言ったか?
鼻の頭を掻いて首を傾げる。
「姉弟設定が良かったのかなぁ?」疑問を口にすると、「お前って超絶馬鹿」遠藤が肩を落として額に手を当てた。
「今のは怒るって。お前、本当に無神経だな」
「え、なんで。遠藤は俺に父さんって呼ばれたかったか?」
「……お前等のお守りをしている気分になった。はあーあ、行くぞKY。あいつの家で珈琲でも飲むぞ」
項垂れつつ、唸って歩き出す遠藤に、「待ってよパパ」おどけてみせる。
ギッと睨まれて、「冗談だって」愛想笑いを浮かべた俺は心に決めた。
今しばらく、二人の前で馬鹿をするのはやめよう。
俺に訴えるような呼ぶような風はいつの間にか、やんでいた。