腰を上げ、ご神木の下に向かう。
 

木の幹に触れると一度だけ体が明滅した。

「うおっ?!」

頓狂な声を上げる島津に苦笑し、その幹を撫でてやる。


「お前のせいで苦労しているぞ俺は。どうしてくれるんだよ。ほんっと」
 

ざわざわっと木の葉が擦れた。
 
ご神木は音で俺を慰めようとしてくれる。
 
「恨んじゃないよ」

困ってはいるけどお前のことは好きだよ、ぽんぽんと幹を叩くとさっきよりも強く木の葉が揺れる。嬉しそうだな、お前。現金な奴。
 

「はぁああ、でもな。折角の日曜なのに、なあんにもできないのもなぁ」
 

落胆していると、「本当っぺぇな」けどお前、つまんなそうだよな……、島津が独り言を零し、ふと手を叩く。
  

「そうだ、健。ちょっち待っててくれないか」

 
いきなり名前呼びかよ。一応俺、先輩だぜ? ……まあいいけど。


「待つって?」

「いいからいいから」


逃げるんじゃねえぞ。
石段を二段越し下りる島津は、すぐに戻るからと俺の返事を聞かず、歩道に出てしまった。

おいおいおい、俺、あんま時間がないんだぞ。遅くなると秋本が煩いんだって。


心中で悪態を付いても一緒。

仕方がなしにキャツを待つこと10分程度、島津は行きと同じように駆けて戻って来た。


手に持っているものは砂埃で色がくすんだサッカーボール。

自宅に取り戻ったようだ。


「来いよ」命令してくる島津は短髪を揺らして、二段越しに石段を上がっていく。


「お、おい」俺の戸惑いなんてお構いなし、脇を通り抜けて早く早くと急かした。
 

誘われるがまま島津と段を上がる俺は、神社の中でもわりと広い場所まで出る。

「パス!」これまた島津が突拍子もなく地面に落としたボールを蹴っ飛ばしてくるもんだから、「うをっづ!」俺は奇声を上げてしまった。

反射的にふくらはぎで受けてしまう。
 

「し、島津」

「こっちにパスしろって健。それとも、お前、下手くそなのか? サッカーしたいお化けなのに?」