一変して驚愕する少年はこっちを凝視してきた。

天井の四隅と俺、交互に視線を配る少年に首を傾げる。

俺の格好、おかしいか? 変なところなんてないと思うんだけど。

肩を竦めて、飲み物売り場を後にした。
お会計を済ませ、コンビニを出て帰路を歩く。
 

「よし、帰りは真っ直ぐに帰るか」


スタスタスタ、スタスタスタ。



「サッカーのことはグズってもしょうがないし」 


スタスタスタ、スタスタスタ。



「あいつも二日酔いで唸ってるだろうから介抱しないとー……」


スタスタスタ、スタスタスタ。
 
 

「………」
 

 
ピタ、ピタ。
 
足音を擬音化するとこんなかんじ。
 

俺は眉根を寄せ、前方を見据えた。

恐る恐る横流しに背後を確認。

視線を戻して顎に指を絡める。


なんでコミュニティー能力の低い少年くんが俺の後をつけて来ているのだろうか。

俺をあんなに疎ましいと思っていた筈なのに……、いやそれともこれは気のせいだろうか。



スタスタスタ、俺は歩みを再開させる。

すると何メートルか後ろに立つ少年もスタスタスタ。

俺が右折すれば、相手も右折し、俺が直進すれば、相手も直進し、俺が止まれば、相手も止まる。


……確定、つけられてるだろ。


勢いよく振り返れば、何故か身構えてくる少年くん一匹。ジトーッと俺を見つめてくる。

初めましてとアイコンタクトを取れるほど、俺もコミュニティー能力が長けているわけじゃないから、お口で質問。「俺に何か用?」と。

たっぷり間を置いて少年くんは意を決し、おずおずと俺を指差してきた。



「お前さ、本当に幽霊なの?」



ジョークで言った言葉を真剣に訊ねてくるもんだから、俺はちょっち顔を強張らせて理由を聞く。


「だってお前……コンビニの防犯ミラーに映ってなかったし」


ゲッ、あいつ。

天井を仰いでいたのは、防犯ミラーを見てやがったのか!

「しかも」ズイーッと視線を下げる少年は俺の足元を指差した。

まさか足が透けているとかっ、慌てて視線を落とすけど透けた様子は無い。

なんだよ、驚かせるなって。足あるじゃんかよ。

 
だけど少年はツンツンと自分の足元を見るように言う。

俺は少年の足元を見た。お前も足じゃんかよ、バッチシ見えてるけど。見比べるように言われて俺は腕を組んだ。

少年の足元と俺の足元、何が違う?

足はあるし、靴も履いてるし、もっと下に向ければ影だって……、へーい影……、俺の影……、影はいずこ?


サーッと青褪める俺は「嘘だろ」悲鳴を上げたくなった。
 
今の今まで気付かなかったけど、俺、影がねぇ。あって当たり前だって思っていたから、気付かなかった。盲点! ……鏡に映らないイコール、影もないってことなんだろうか。

うをおいいっ、もう本格的に外を歩けねぇじゃん!

ふうっと息をつく俺は、興味津々に見つめてくる少年に一笑。
 

「幽霊ジョークのせいで、君には俺の姿形が見えなくなっているようだね。あはは。いやぁ参ったなぁ」

「ジョークで鏡に映らないのか?」

「俺、体の色素が薄いんだ。よく目を凝らしたら映っているから」

「影は?」

「影はちゃーんとあるよ、ちゃーんと」

「何処に?」

「え? あぁあ……後ろについてるかなぁ」


苦しい、かんなり苦しいぞ。この言い訳!
 
しかも向こう、全然信じて無さそう。歩んで俺の影を確認してくる。 


「ねぇぞ」「本体から抜け出して、今頃は公園辺りでたむろっているんじゃないかと」「じゃあ公園に行けば戻るのか?」「えーっと」「なあ?」「いやぁ」「なーあ」


幽霊を怖がるどころか、好奇心ばりばりで俺を見てくる少年くんに俺は追い詰められた。

やばいやばいやばい、どうにかして切り抜けないと。

事が知れたら、秋本や遠藤に叱られる!


……隙を見て逃げる、か。


「そうだよ、俺は幽霊だ。サッカーのことが忘れられず、この世を彷徨っている可哀想な幽霊くんだよ。お前は俺のこと怖くないのか?」

「怖くねぇっつーか、なんっつーか。まだ信じきれねぇっつーか」