浦島太郎。


誰しも一度は読んだことのある童話だろう。



俺はまさしく、その童話の浦島太郎だ。



おかしいな。

俺、竜宮城に寄り道した記憶なんてないのに。







「私が秋本桃香よ。秋本桃香なのよ」



見慣れた街、でも見知らぬ街を彷徨っていた俺に声を掛けてきた姉さん。 
 
相手のことなどお構いなしに抱き締めてきたその姉さんは、散々人を捲くし立てた挙句、自己紹介をして俺を混乱に陥れた。


お前があの“秋本桃香”ってどういうことだよ。


お世辞でもパッと見、中学生には見えない。
どっからどう見ても成人した女にしか見えないお前が、あの秋本桃香? 


そりゃあ、面影はあいつに似てる似過ぎてるけど。


だけど俺の知る秋本桃香は15歳、俺と同級生だぞ。
 

なんでお前、成長してるんだよ。
背丈も顔立ちも、ナイスなことに胸も、全部、成長しちまって。
 
 
泣きじゃくる姉さんの腕の強さを感じながら、ただただ俺は窮し切っていた。
 

此処は何処だ?

俺の知る街だよな?


なのになんで俺は街に親しみを感じないんだ?
  
 


「おれ、どうしちゃったんだろう」




いつまでも放してくれない姉さんの腕の中で瞼を下ろす。

もう一度、寝ちまいたい。


これは夢だと、誰かに言われたい―――…。