「まあ、秋本は今の言葉で言えば…、ツンデレだったからな。素直になれず本人につらく当たっちまってたんだろうけど」
溜息混じりに遠藤がホットミルクを飲み干す。
「つんでれ?」新たな単語に目をパチクリ。
なんだその、つんでれってのは。
ケーワイとか、なついとか、2011年は変な単語バッカ耳にするなぁ。
「表向きじゃ素っ気無い態度を取りつつ、内心じゃ好きだって思ってる奴の事を指すんだよ。秋本は典型的にそれだったから、お前には分かりづらかったんだと思う。
けどよ、秋本は本当に熱心にお前を探していたんだ。
俺と秋本がこうして繋がってるのも、お前のことを探してる仲間だったから。だから言えるんだ。あいつはお前のことを」
「仮にそれが本当だったとしても…、今の俺じゃ無理だよ遠藤」
だって俺は15、向こうは30、歳の差がある。否、時間の差があるんだから。
微苦笑を零す俺は小さく首を横に振って、この話はナシだとリセットを要請。
「この女泣かせ」
毒づく遠藤だけど、あんま台詞に毒を感じられないのは、俺の立場を理解してくれているからだろう。さすがは親友だ。
俺もホットミルクを飲み干した。気持ちを少しでも軽くするために。
「そういやさ、遠藤。家族の話題、出してくれてたけど…、父さんと母さん、離婚していないかんじ?」
「ん、聡(さとる)さんがそう言ってたよ」
聡は俺の兄貴だ。二つ上の兄貴で、それなりに仲が良かった。
2011年の俺がアラサーなら、兄貴は32になってるのか、想像もつかないけどな。
しかも両親が離婚してないってのがな、これまた不思議だ。1996年の両親は喧嘩が絶え間なかったのに。
「まあでも」
遠藤は遠慮がちにポツリ。
兄貴と両親の仲は悪いと教えてくれる。