「そう思うと俺はいつまで此処にいられるか。急にアラサーになっちまうかもしれないし、もしかしたら消えるかもしれない。よく分かんないけどよ」
 

「んなのってねぇよ。お前の意思でこっちに来たわけじゃないんだろ?
戻れるならまだしも、消えるなんてあんまりじゃねえかよっ…、折角お前に再会できたっつーのに。それに秋本とだって上手くいってるんだろ?」


何の話だよ、俺は瞬きをした。


「この世界に来た日、たまたまあいつと再会して、居候させてもらってる身分なんだけど。そうだな、上手くいってるといえば上手くいってるかも、一同級生として」


俺の返答に遠藤が間の抜けた声を出した。

そうか、遠藤は俺が秋本に片恋抱いてるって知ってたっけ。

こいつにとっては15年も前の話になるから忘れていると思っていたけど。


「不思議な縁だよな」

まさか片恋、いや失恋相手の家に居候するなんて、俺は鼻の頭を掻いてそう呟いた。


ますます遠藤は頓狂な声を出す。

なんだよ、俺、おかしなこと何も言ってないぞ。


「ば…馬鹿じゃねの。秋本は俺と同じように、ずーっとお前を探していたんだぞ。帰り、待っていたんだぞ。この意味、分かんねぇのか?」
 
「もしかして秋本が俺のことを好きって言いたいのか? ははっ、まさか。俺…、毎度の如くフラれてたし、それに決定的にあの日失恋したし」


だって中学版の秋本、告られてたし。あいつ嬉しそうだったし。

なんといっても俺にだけ、やけに冷たかったもんな。


今は教師をしているからなのか、すっげぇ世話焼いてくれるけど。


マグカップをテーブルに置いて、頭の後ろで腕を組む俺は小さく吐息をついた。

そりゃあ、人の心を引っ掻いてくるような悪戯は仕掛けてくるけど、でもそんな素振りは垣間見せない。

遠藤の勘違いなんじゃないかと思うんだけど。


俺はそんなに良い男でもないしな。

自分に誇れるってものがない。
 


―――…秋本の奴、なんで俺なんかを探してくれていたんだろう。
 

再会一番に抱擁してくれた感触が名残りとして思い出される。

なんとなく体の芯が疼いた気がした。