「お前、ずっと此処に残れるのか?」

 
2011年の世界に残れるのか、怖々する声音は微かに震えていた。

残れると断言はできない。

現に俺は消えかけた。
残れないと断言もできないけど、残れるとも断言できない。

嘘は言いたくなかったから、「分かんね」率直に返した。

そしてふっと思ったことを口にする。


「此処に残っても俺が生きていくには窮屈だ。現実問題、学校にも社会にも出れない俺はお荷物も当たり前。匿ってくれる秋本にも迷惑が掛かる。
勿論、これからは遠藤にも迷惑が掛かっていくと思う」


んでもって俺とお前等の決定的に違うことは生きてる時間だ。

15年分、きっちり生きている秋本や遠藤と違って、俺は15年の空白がある。


1996年から2011年に飛んできたのか、それとも俺が死んだことも分からず、この世界を彷徨っているのか分からないけど、俺は二人と違う。これだけははっきりと言える。
 

生きているようで幽霊のよう、俺は未だ自分の正体が分からず、今日を過ごしている。


1996年に戻れたら一番なんだろうけど、例えば話、童話浦島太郎は竜宮城に行って、地上に戻ったら500年経っていただろ?

ショックを受けた浦島太郎は、お土産にもらった玉手箱を開けてじいさんになった。

500年前に戻ったなんてどっこにも書いていない。

じいさんになったおしまい、で終わってる。



―――…過ぎた時間は取り戻せないのかもしれないな。

 

花は芽が開いても、すぐに花を咲かない。芽が開いて、すくすくと茎を伸ばし、青々とした葉を大きくさせながら生長して、蕾、そして花を咲かす。

過程があってこそ花は花を咲かす。

人間も同じ。
子供の成長の過程があって大人になる。


ご神木の下で眠り、成長の過程をすっ飛ばしている俺は、世界にとって異常だと思う。