―――…リビングのデジタル置き時計は午前3時14分という刻を刻んでいる。

分を刻んでいる数字の隣で、一回り小さな数字が37、38、39、と、秒を刻んでいた。

もうすぐ15分か。早いな、時間が経つって。
 

デジタル時計が休む間もなく時間を刻んでいる傍ら、俺と遠藤は目を腫らしてホットミルクを啜っていた。

数時間前に珈琲を飲んだっつーのに、また飲み物をリビングで飲むことになっちまうなんて、どんだけ夜更かししてるんだ俺等。今日はオールかよ畜生。

俺は別にいいけど、遠藤は仕事だろ。

明日も…、日付変わっちまったから今日も平日だぞ。


だけど遠藤は寝る素振りを見せない。今日はもう起きておくつもりらしい。


リラックスを与えてくれるホットミルクを覗き込む。

白い一色に染まっているミルクの表面を見つめると、薄っすらと湯気が立っているのが分かった。


「まさか29になって、こんな泣き方するとは思わなかったなぁ」


どうしよう、夜明けまでに顔の腫れが引くとは思えない。

遠藤の悩みに俺はおどけた。

「俺もお前もブサイク面だな」そう茶化すと、「今日は取引先に行くのに」と遠藤は力なく嘆いている。

大の大人が雄々しく男泣きしたことに反省しているようだけど、悔いはなさそうだ。


腫れた顔をしているけど、どっか晴れた顔を作っていた。洒落じゃないぞ。


俺自身も胸のつっかえが一つ取れた気がした。

遠藤のこと、片隅で気になっていたからな。


こうして仲直りできたことは凄く嬉しい。


そして幸せ者なんだって実感している。

15年間も俺を待ってくれていた、探してくれていた友達がいてくれる。


これ以上にない幸せ者だ。
 

「なあ、坂本」「ん?」話し掛けられて、俺は遠藤に視線を流す。

対照的にマグカップの中をひたすら見つめている遠藤は、軽く中身を回しながら、ちょっと間を置いて唇を動かした。