「二、三日、お前を預かることになってるから、したけりゃ後でしてもいいぞ。安心しろ、時間はあるって」
 
「嘘。マジで?」


「まずは新曲、聴きたいんだろ?」

   
びっくりする俺を余所に、遠藤は珈琲を淹れてやると綻んで台所に向かう。

2011年の遠藤、秋本はやけに優しいな。

ふとした瞬間、30らしい大人の優しさを見せ付けてくれる。

これが15と30の違いなのかもしれない。
同輩が同輩じゃない、なんか侘しいけどしょーがないよな。


俺は心身15で、空白の15年間、神社で過ごしていたわけだし。

「ブラックはいけるか?」「いや無理」「だろうな」「あ。お子様って思っただろ?」「思った」

明日も仕事だっつーのに、疲労の色を一抹も見せず、俺の相手をしてくれる遠藤の優しさに感謝する。

10日前、あんなに怒らせたっていうのに、んにゃ、15年前あんなに怒らせたってのに…、ありがとうな。遠藤。


沢山の感謝を心中で贈った。
 
 


まったりと珈琲を飲んで談笑、各々風呂に入った後は寝室で大好きなアーティストの曲を聴かせてもらう。夜分遅いから音量は小で。

1996年以降からの新作を一つひとつ聴かせてもらう度に、俺は笑顔を零しちまった。やっぱいいよな、このアーティスト。

年が若くなるに連れて曲調にも変化が見受けられるけど、俺は嫌いじゃない。寧ろ大好き度が増した。


遠藤のベッドの上でCDの歌詞を開きながら、曲に耳を傾ける俺は「最高だよなぁ」へにゃっと顔の筋肉を緩ませる。
 

「男らしい声に惚れるけど、歌詞にも惚れる。何が最高か分かないくらい最高だ」
 
「リポーターとしては半人前の台詞だな」
 

「ですよねぇ」自覚はしてます、でも好き過ぎて言葉が出ません、俺は胡坐を掻いている遠藤におどけた。

笑みを返す遠藤は次の曲を掛けるために、コンポからCDを取り出す。

待っている間、俺は歌詞を熱心に読んでいた。
一字一句脳裏に焼き付けていこう。

俺の様子に頬を崩す遠藤は、「お前ほど」熱心なファンはいないよな、と口を開いてきた。