にしても鞄、重かったな。
秋本が多分、着替えを入れてくれたんだろうけど、それにしても…、鞄を膝に置きなおして中身を確認してみる。
「ゲッ」俺は声を上げた。
マジかよ秋本、お前、少しは考慮してくれって。
「教科書入れっ放しとか、重い筈だぜ。あいつ、何も見ずに詰め込みやがったな」
「んー? お、教科書じゃんか。しかも数学、ちょっと見せてくれよ」
懐かしい産物とご対面した遠藤は軽くテンションを上げて、俺に歩んでくる。
着替えてからゆっくり見ればいいのに、鞄に入ってる数学の教科書を取ってパラパラとページを捲った。
「ピタゴラスの定理とかあったあった」
まだ俺が習っていない章を開いて懐かしむ遠藤は、他にないのかと鞄を覗き込んでくる。
「他に?」あるとするなら、国語だろ、英語だろ、理科に…、歴史の教科書くらいしかない。
手っ取り早く金曜の時間割が詰め込まれてるんだと言いたかったけど、なにぶん相手は15年後の遠藤。
中3の時間割を覚えているかどうかが怪しい。
「そうだ。これ、もう古いんだろ? 秋本に見せたら、超興奮されたんだけど」
「うわっ、ポケベル! 現物とか久々に見た」
大興奮の遠藤はポケベルを手に取って、あらゆる角度からその機械を観察。
「俺のは壊れたもんな」
いやぁ懐かしい、ホックホク顔でポケベルを見つめるリーマンは後でゆっくり見せてくれと頬を崩す。
んでもって着替えを再開、廊下の向こうに姿を消した。
見慣れつつある光景だけど、そんなに懐かしいのか。ポケベル。
共有できない懐古の念に若干寂しさを覚える俺は、ポケベルに目を落とし、おもむろに宙に投げてキャッチ。暇を弄ばせる。
「ん。あ、これ。サッカーゲームじゃん」
俺はテーブルに放置されていたゲームのパッケージに手を伸ばす。
「あいつらしいな」
パッケージを裏返して微笑。
遠藤はスポーツ大好き少年だった。
プレイすることも大好きだし、観戦することも大好きだし、ゲームすることも大好きだった。それは今も変わっていないらしい。
家着に着替え戻って来た遠藤に、「相変わらずだな」ひらひらとパッケージを翳す。