「昼間、気絶しているお前を後部席に乗せて運転しようとしたら…、バックミラーにお前の姿、映ってなかったからさ」
幽霊なのかと思ったのだと遠藤は意見する。
だけどお前、超健康そうだし物食ってたし実体あるし、幽霊って柄じゃないよな。
軽く笑声を漏らすリーマンに、俺もつられて微苦笑。
「俺自身も幽霊かどうか分からないや。生きてるのか、死んでるのか、それさえ分からない。
気付けば2011年って世界にいて、アラサーのお前等に再会した。成長したお前等に再会したんだ」
訪れる静寂。掛かったエンジン音だけが車内を満たす。
「幽霊ならいつか俺は」
消えちまうかもしれないな、力なく言うと、
「じゃあ幽霊説はなしだ」
ぶっきら棒にリーマンは言い放った。
幽霊が飯食えるかよ、やめだやめ、お前は幽霊じゃねえ。
アクセルを踏んでハンドルを左に切った。
言い出しっぺのくせにシケ込むなよと横暴なことを仰るアラサー。
大通りに向かうために車を走らせる。
「消えるとか言うなよ。ようやく再会できたんだ。消えるとか、簡単に言うなって。頼むから」
萎む声。
瞬きをして俺は遠藤の横顔を見つめた。脇見をすることもなく、相手は凛と澄んだ声音で伝えてきた。
「お前を探してたんだ」
ずっと、そうずっと、探していた。
一方で待っていた。お前の帰りを待っていた。
はっきりと告げて来る遠藤に声を失う。
ずっと探していた、待っていた、お前が俺を?
「ま、話は追々。坂本、お前に懐かしい曲聴かせてやるよ。おっと、お前にとっちゃ流行の曲かもしれないけど」
コンポの電源を点けて、遠藤は曲を流してくれる。
俺はらんらんに目を輝かせた。遠藤が流してくれた曲は、大好きなアーティスト。
俺と遠藤がこよなく愛しているアーティストの曲が流れて、ついテンションが上がった。
「まだ活動してる?」胸を弾ませて遠藤に聞くと、「バリバリだぜ」おかげでファン歴も長いながい、返答に俺は俄然テンションが上がった。