家についた頃には日付も変わっていた。
「おかえり、遅かったのね」
「ただいまー。久々に紗耶香と会ったから盛り上がっちゃった」
パジャマ姿の母が出迎えてくれて、わたしに温かいお茶を注いでくれる。こういうとき実家は楽ちんだ。父の姿が見えないのは恐らくもうベッドの中に入っているからだろう。
「いつまでも遊んでないで勉強もしなさいよ」
小うるさいのは面倒だけれど。「はいはい」と聞き流しながら返事をすると、盛大でこれみよがしなため息をつかれてしまったけれど、聞こえないふりをした。
「幸登くんは? 元気なの?」
「多分、元気なんじゃないかな」
「あんたねえ、なんなのその返事は。あんたがそんな態度だと振られるわよ」
それはゲームばかりをしている幸登と知らないからいえる台詞だ。むしろ幸登に向けて言って欲しい。家に何度か来た彼はいつだって猫をかぶってお土産持参に礼儀正しい態度で受け答えをする。両親も姉もそんな幸登を随分信用しているらしく、ケンカしてもいつだってわたしが悪者扱いだ。本当は気も利かないし出不精だし、いい加減な人なのに。
マンションを出てから幸登からの連絡は一度もない。今頃はバイト先の飲み会で楽しくやっているのだろう。
「……家、帰ってこようかなあ……」ため息を落とすと母は「好きにすれば」と言って欠伸をした。
「じゃあ、お母さんは先寝るから。置きっぱなしにしてた手紙、部屋に置いといたわよ」
「ああ……ありがと。お休み」
母の背中が「セイちゃん、元気なのかしらねえ」と独りごちた。
わたしの部屋の真ん中にあるローテーブルに、ぽつんと放置されている手紙は、ピンクの封筒に入っていた。
裏を見ると『宮下 聖子』と懐かしい名前が書かれてある。昼間はろくに見なかったけれど、確かに幹事はセイちゃんだった。よくよく見れば、少し大人ぽくなっているけれど、丸みを帯びていて少し傾斜した文字は、中学から毎日見ていたセイちゃんのクセが残っている。
ラグの上に座り込んで手紙の封を開ける。マンションに届く光熱費や携帯代金の封は乱暴に開けるけれど、カッターの刃を入れて、きれいに中身を取り出した。
『三年四組、同窓会のお知らせ』というタイトルの下には、大学生らしくない大人びた文章と、日時と場所が書かれている。丁寧に地図まで印刷されていた。B5サイズの色付きのコピー用紙と返信用のはがき。他にはなにも入っていない。
愛想の感じられない義務的な手紙の一番下には『かあれば幹事まで』という一言と二人の名前が記されている。
宮下 聖子
今坂 結城
名前を見た瞬間、タイムスリップしたかのような当時の胸の痛みが蘇った。