「キミ――名は、なんという」
そう言って陸軍の異形襲撃部隊に所属する軍人、鷹司侑が手を伸ばす。
目の前で小さな体を震わせている女性に触れようとしているのだ。
花山寧音の人生で男性が――しかも、精悍という言葉がよく似合う端正な容姿の人に触れられることなんて、ありえないと思っていた。
「お、おやめくださいっ。軍人様っ……私は、喰霊をするっ……穢れた娘、なのですっ」
喰霊――それは、人ならざるものを討伐する侑のような軍人が成敗すべき悪霊を食べるという穢れと呼ばれる行為。
水の都、瓢箪國では忌み嫌われる行いだ。
けれど、侑は寧音の言葉を聞いてくすりと小さく笑う。
「花嫁に迎えたい女性に触れたいと思って、何が悪い?」
「え……? 今、なんと……?」
幼い頃に両親を亡くし、女中として住処を与えてくれた親友に喰霊のことを言いふらされて居場所のなかった寧音にそっと手を差し出す侑。
この日が、寧音にとって、後に幸せな花嫁となる伴侶との運命の出会いだった。


