境界線を脱ぎ捨てて、君とスニーカーを履く ~限界オタクのスケバン会長に、僕は恋をした~


 文化祭ライブの動画がバズった。

 それもそうだろう。メジャーデビューを果たしたばかりのタイミングで、ミュージックビデオの視聴も好調。
 実力とルックスの二物を天に与えられた五匹の癒し系小動物ということで、メディアの取材にもひっぱりだこだ。
 そんな最中に明かされた、グループのセンター、ユキヤの秘密。しかも彼は動画撮影と配信を歓迎したので、様々なアングルからたくさんのライブ動画がネットに流された。
 でも、そうなるように彼が目論んだわけではない。なにしろ彼は、ライブが終わるギリギリまでカランを脱退するつもりだったし、実際ステージ上で彼の口からそれが伝えられた。
 それでもチームメンバーは彼を新たなセンターとして、温かく迎えてくれたのだ。

 ユキヤにしてみれば、それは衝撃的なサプライズだったが、最終的に動画ライブ撮影を許可した黒川社長が――その名の通り――黒幕だったのだ。エンターテイメントビジネスで培った経験と勘で、「秘密を抱え生きてきたユキヤは共感を呼び、売れる!」と踏んで文化祭のステージを利用した、というのがどうやら真相らしい。
 結果オーライと言ってしまえばそれまでだが、どうも手放しで喜べない。
 そういえば、以前ユキヤから、「一般的な話として、僕の秘密を知ってもみんなに受け入れてもらえるか」と聞かれたことがあったけど、そのときの私の考えも「黒川社長に伝えました」と、ユキヤが小悪魔的な笑みを浮かべつつ教えてくれたし……

 動画配信が裏目に出て、攻撃を受け炎上する可能性もあったんだと思い返すと、今でもぞっとする。

 もうそれはいい……というか、本当によかった。さすがに露骨に学校バレしたので、校門の前をウロウロする女の子が現れ、ユキヤは登校日を減らし、課題提出に切り替える授業が多くなってしまったのは、イクナイけど。
 もっとも、デビューアルバムリリースの全国ツアーが始まってしまい、CA(~)LINの五人は十一月中、ほとんど東京にいなかった……もちろん、大阪、福岡、仙台と私も追っかけさせてもらいましたよ!

 それよりもなによりも。

 大変困ったことに、私自身がバズってしまったのだ……
 『都会に迷い込んだ野ウサギちゃんのお友達勝負コーデ』の女子高生が体育館のステージに上がったかと思うと、スケバンのように大見栄を切ってしまったのだ。そのギャップに萌えられてしまったらしい。

 ある日の下校時間、下駄箱で靴を履き替えていると、他校と思われる五人の女の子が玄関先からこっちを気にしている。
 ああ、これはユキヤの『出待ち』だなと思い、注意してやろうと近づくと、彼女らに取り囲まれてしまった。

「あの、生徒会長さん……カズサさん……ですよね?」
「……ああ、いかにも私は生徒会長の佐伯だが?」
と返事したとたん、少女たちはキャアア!と歓声を上げ、お会いしたかったです! とかインストアライブでもスケバンしてましたよね! とか声をかけられたかと思うと、よかったら一緒に写真撮ってくださいと無理矢理スマホカメラの真ん中に立たされてしまった。

 それからというもの……

 TikTok上で、可愛いコーデで、「ユキヤはわが校の大切な仲間だ。そして、私が愛する人だ。彼を傷つけようとする奴は、この私が断じて許さん。それだけは肝に銘じておいてくれ!」と大見栄を切るミーム動画があちこちのアカウントで再生されたり……

 CA(~)LINのツアーに行ったら行ったで、超ロングスカートのスケバンコスでペンライトを振るユキヤのファンたちに全国あちこちのライブハウスで遭遇し、私がスケバンスタイルでないことを残念がっていたりと、予想もしていなかった展開にオロオロしっぱなしだ……そう言えば、ユキヤに私のスケバン制服姿をどう思っているか、聞いたことがなかったな……

 そんなこんながわが身にも降りかかり――巻き込まれている自分にいくぶん快感を覚えながらも――このままではいかんと頭の中を徐々に受験勉強モードに切り替えた。
 忙しい中、時間を見つけて会ってくれるユキヤに充電させてもらえるのは、大変ありがたい。なんて幸せ者なんだろう!
 こうやってなんとか高校生活最後の秋冬を乗り切った。

 翌春。

 私は生徒会の職責を全うし、校則も改訂し、無事に外苑前高校を卒業し、志望の大学に入学した。
 そして、学生の身でありながら、私はとある企業の『共同経営者』を任されることになった。経営者のもう一人は、私の父だ。一次定年を迎えるのはまだ先だけど、そろそろ新しい仕事にチャレンジしたいと思っていたところだったらしく、タイミングもいいので、前の会社の早期退職制度を利用し、エンターテインメントの世界に飛び込むことにしたのだ。きっと私のことを考えての決断でもあったはずだ。まったく父には頭が上がらない。ライバルが父、と言いたいところだが、生徒会長時代から彼は私の理想であり、なかなか乗り越えられない壁だ。

 新規ビジネスの話を持ちかけてくれたのは、父の旧友でもあり、ユキヤが所属していた芸能事務所、アンフレーム・エンターテインメントの黒川社長。黒川さんはCA(~)LINとユキヤの一件で、自分の性自認に悩むアーティストやアイドル志望者が結構いることを知り、そのような子を受け容れ、育成していく芸能事務所の立ち上げを思いついたのだ。ユキヤはCA(~)LINのメンバーとしての活動を続けながらもソロ活動を始め、悩む若者にとっての目標であり、指南役になり始めている。
 会社の名前は、Questioning。父は前職で法務関連の仕事をしていたので、このような会社の経営に力を貸してくれるのは大変心強い。

 黒川社長の紹介に負うことが大きいが、この事務所に所属したいという若者が集まってきており、オーディションの話もエンターテインメント関連の企業から舞い込んでいる。
 本体のアンフレーム・エンターテインメントから出向して手伝ってくれているスタッフもいるけど、雑務系の作業は山ほどある。アルバイトを募集すると、早速応募があった。履歴書に目を通し、パサリとテーブルの上に落としてしまった。

 氏名欄に書かれていたのは、
 神崎 凛
 という見覚えがある名前……
 ユキヤに関するネットの書きこみについて、私が犯人呼ばわりしてしまった子だ。

 面接に訪れた彼女は言う。
「高校生でも応募可、ということで、うちの学校(外苑前高)もアルバイトを禁じていませんので」
「た、確かにそうだが……バイトはずっと続けるつもりなのか?」
「ええ、もちろん。アタシ、今川雪夜君のメインのマネージャーになることを夢見ています。覚悟しておいてくださいね、カズサ社長」

 会社の名前は、『Questioning』なのだが……彼女には、はっきりと答えが出ているらしい。

  (了)