婚礼を明日に控えた昼下がり、萩姫が花嫁衣装の仕上がりを確かめに北の対を訪れた。
綾が幾夜もかけて刺した袿の裾を、萩姫は指先でつまみ上げ、扇で口元を隠して笑う。
「あら、綾姉様のお仕立て。女房の子は、針が達者でいらっしゃるのね。お手が早くて、助かりますこと」
控えていた菖蒲が息を呑む。綾は、微笑んだまま頭を下げた。
「お気に召さぬところがございましたら、直しますゆえ」
「まあ、直すだなんて。そのままで結構よ。どうせ誰も、裾までは見ませんもの」
そのとき、庭に控えていた朔夜が、音もなく縁へ進み出て膝をついた。
「畏れながら、萩姫様。北の方様が、御髪上げのことでお探しでいらっしゃると」
「まあ、もうそんな刻限?」
萩姫は慌てて衣を翻し、寝殿へ去っていった。
残された縁で、綾はそっと朔夜を見た。
「……御髪上げは、明日の朝のはずですが」
「左様でございましたか。私の思い違いでございました」
朔夜は涼しい顔で頭を下げた。その唇の端が、ごくわずか、和らいで見えた。菖蒲が袖で口を覆い、こらえきれずに肩を震わせている。綾は、久しぶりに声を立てて笑った。笑い方を忘れていたことに、そのとき初めて気づいた。


