婚礼の支度が佳境に入ると、北の方の女房たちは綾の膳を運ぶのをうっかり忘れるようになった。
忙しいのだから、仕方がない。
綾はそう思うことにして、夜更けまで針を動かした。空腹には、慣れていた。
ところが、いつの頃からか、夜半になると、北の対の簀子に、蓋をした小さな折敷が置かれるようになった。
中には、握り飯がふたつ。形は不揃いで、片方は少し大きく、塩がやけに濃かった。
「誰が、置いているのでしょう」
綾が首を傾げると、控えていた朔夜が、ごく淡々と答えた。
「厨に余りがございましたので」
「余りですか。毎晩」
「毎晩、余るのでございます」
顔色ひとつ変えずに言う。けれど、その指先に、米粒がひとつ、ついていた。
綾は、それを見なかったふりをして、握り飯を口に運んだ。塩気が強かった。目の奥が少し熱くなるほど、ありがたかった。
「……おいしゅうございます」
「それは、よろしゅうございました」
朔夜の声が、ほんのわずかに、安堵の色を帯びていた。


