月影の皇子は女房腹の姫を選ぶ




 婚礼は、月の離宮でささやかに営まれた。支度は、菖蒲が朝から泣きながら整えてくれた。


「綾様、じっとしていてくださいまし。髪が涙でうまく結えません」

「泣かないで。もっと結えなくなるわ」


 千草は静かに白檀を焚き、鷹臣は庭の隅でそっぽを向いて袖で目元を拭っていた。小百合は籠いっぱいの花びらを抱えて、そわそわと出番を待っている。

 白い衣をまとった綾が縁に出ると庭に立っていた朔夜が振り向いた。
 彼は、しばらく何も言わなかった。言葉を忘れてしまったように。


「……綺麗です」


 やっと絞り出した声が、かすかに震えていた。背後で、鷹臣がわざとらしく咳払いをした。

 参列したのは菖蒲と千草、紅葉、鷹臣。そして離宮に身を寄せる人々。父は来なかった。その代わり、山の寺に下がった藤壺の女御から一通の短い文が届いた。


 ――どうか、月の力が、都を呑まぬように。