月影の皇子は女房腹の姫を選ぶ





 それから、季節がひとつ巡った。
 月の離宮は姿を改めた。荒れていた庭は薬草園になり広い座敷には、行き場を失った人々が集うようになった。

 呪いや妖に苦しむ者。家を追われた者。誰にも居場所を与えられなかった女房たち。


「綾さま、この薬草はどう干せばよいのでしょう」

「風通しのよい日陰に。陽に当てすぎると、香が飛んでしまうから」


 紅葉は、すっかり回復しいまでは薬房の手伝いをしている。老いた千草が、ときおり様子を見にやってきては満足げに頷いた。
 菖蒲は泣きながら駆けつけてそのまま綾付きの女房に戻った。

 口の軽さは、相変わらずだった。


「綾様、また噂されておりますよ。離宮の女主人は月の皇子に溺愛されていると」

「それは、噂ではあるまい」


 通りかかった鷹臣が、ぼそりと言った。険しかった彼の眼差しは、いまではどこか温かい。

 ある日の昼下がり、門の前にひとりの少女が立ち尽くしていた。

 十四、五であろうか。粗末な衣は裾が擦り切れ、手には小さな風呂敷包みがひとつ。聞けば、奉公先で些細な粗相を咎められて追い出され、行くあてもなく噂を頼りにここまで歩いてきたのだという。


「あの……ここは、居場所のない者を置いてくださると、聞いて」


 少女は、声を震わせた。


「何でもします。掃除も、水汲みも。だから、どうか」