月蝕の夜から三日ののち綾は清涼殿に召された。ただの綾となった身には、あまりに過ぎた場所だった。朔夜が傍らにいなければ、足がすくんでいたかもしれない。
白い直衣をまとった彼は離宮の月夜に見た威厳をそのまま身に帯びていた。
御簾の向こうに帝がおられる。その御前に藤壺の女御が蒼白な顔で座していた。少し離れて、藤原兼雅が額を床に押しつけるように控えている。
「陰陽師の申し立てにより、月影の呪詛の仔細は明らかになった」
帝の声は、深く疲れていた。
女御は唇を噛み、震える声で言った。
「私は……この国を守りたかったのです」
「そなたの恐れは、真であったのかもしれぬ。だが罪なき娘の魂を器にして月の子の命を奪おうとした咎は、また別のものだ」
帝は、静かに続けた。
「藤壺は宮中を辞し、山の寺に下がるがよい。東宮は、母の罪に関わりなくそのままに遇する」
女御は深く頭を下げた。その肩がわずかに震えていた。
そして、帝の声が揺れた。
「朔夜……顔を、よく見せてくれ」
御簾が上げられた。
年老いた帝がそこにいた。朔夜を見つめる目は亡霊でも見るかのように震えていた。
「あの夜、離宮が焼けたと聞いた。そなたも母とともに逝ったと……長い間そう信じておった」
「父上」
朔夜は深く頭を下げた。帝は何も言えず、ただ袖で目元を覆った。その静けさのなかで兼雅がこそりと顔を上げた。彼は綾を見て急に猫撫で声を出した。


