月影の皇子は女房腹の姫を選ぶ



 目を覚ますと障子の向こうが白んでいた。綾は朔夜の腕のなかにいた。彼は眠らずにいたのか、まだ静かに綾の髪を指で梳いている。


「……起きていたのですか」

「あなたが眠る顔を、見ていました」

「恥ずかしいです」

「後悔は」


 問う声に、ほんのわずかな不安が滲んでいた。綾は、彼の胸に顔を寄せて首を振った。


「ありません。一つも」


 朔夜が息を吐いた。安堵と言葉にならない愛おしさが混じった息だった。やがて彼はそっと綾から身を離し懐から一通の文を取り出した。


「儀式の前にどうしてもお渡ししたくて」


 薄い紙に流れるような筆跡が並んでいた。

 命が尽きても、必ずあなたのもとへ戻る。
 綾はその一行を、胸に抱いた。


「戻ってきてください。生きて」

「はい」

「私は、ここで待っています。でも待つだけではありません。あなたの隣で戦います」
 朔夜は、綾の手を、強く握った。