月影の皇子は女房腹の姫を選ぶ




 そのときだった。雲が、月を覆った。
 突然、綾の鎖骨のあたりに焼けつくような痛みが走った。

「あっ……!」

「綾!?」


 朔夜は綾の襟をはだけて見ると、白い肌の上に黒い月のような痣が浮かんでいた。墨を落としたように、じわじわと広がっていく。
 細い三日月の形をした痣は、その縁に蔓のような影を這わせている。


 ――月を……奪え……


 あの囁きが聞こえた。朔夜の顔から、血の気が引いた。


「これは……月影の呪詛。女御が、もう動いたのか」


 彼は綾を、強く抱き寄せた。震える指が痣の上に触れそうになってためらい、空を切る。


「大丈夫だ。……大丈夫だ、綾」


 自分に言い聞かせるような声だった。
 池の面で、月が、雲の向こうに隠れていった。