紅葉は、この離宮に来てまだ半月ほどの若い女房だった。もとは藤壺の女御に仕えていたのだという。
その日の昼、薬を届けた綾に、紅葉は、ぽつりぽつりと語った。
「女御様は、お優しい方でしたのよ。……ただ、夜になると亡くなった兄君のお名前を呼んでひとりで泣いておられて」
「兄君の」
「私、偶然、それを見てしまったのです。そうしたら、他の侍女たちが『見てはならぬものを見た』と……。気づいたら、腕に、この痣が」
紅葉は袖をまくり、細い腕に浮いた薄い痣を見せた。
「女御様ご自身は、ご存じないのかもしれません。あの方、いつも、怯えておられるようでした。何かを、ひどく、恐れて」
綾は、その言葉を胸の奥にしまった。
その夜、療養の女房のひとり紅葉が悲鳴を上げた。
駆けつけると、若い女房の腕に墨のような黒い痣が這い上がっていた。皮膚の下で蔓のようなものが蠢いている。
「呪いだわ……」


