目が覚めたのは、六時二十分の目覚ましが鳴る少し前。
三時にも四時にも起きなかった。
カーテンの隙間から光が入っていて、それを見ながら少しのあいだ天井を見ていた。
昨日の朝と同じ姿勢なのに、体の感じが違う。
起き上がってカーテンを開けると、隣のビルの壁が朝の色をしていた。
お腹が空いていた。
顔を洗って着替えて一階に下りると、朝食の会場は思ったより人がいた。
スーツの人が多い。
みんな一人で座って、テレビのニュースを見ながら食べている。
トレーを取って、列に並ぶ。
ご飯と味噌汁。
卵焼きに、ウインナーが二本。
ひじきの煮物を少し……
サラダを取ろうとして、ドレッシングが三種類あって迷った。
「わっ、シュウマイ」
いちばん奥のバットに、小さいシウマイが並んでいた。
朝からシウマイがあるのはこの街のホテルらしいな、と思って二つ取った。
席に座って、味噌汁から飲む。
普通の味だけど、少しだけほっとする。
ホテルの朝ごはんの味。
ご飯を食べて、卵焼きを食べて、シウマイを一つ食べた。
温かくて、少し甘い。
もう一つも食べた。
全部食べ終わってから、昨日の朝のサンドイッチを一口しか食べられなかったことを思い出す。
今日は、トレーの上に何も残っていない。
それだけのことだったけれど、私は少しだけいい気分になった。
部屋に戻って、歯を磨いて、化粧をした。
ファンデーションのノリが良い。
コンシーラーは今日は少しでよかった。
九時にホテルを出ると、駅のほうのコンビニで資料を三部刷った。
ちゃんと順番が入れ替わっているのを確認して、クリアファイルに入れる。
外に出ると、今日もすでに暑い。
昨日と同じ道を歩き、昨日と同じビルに入って受付の電話をかけた。
降りてきたのは、また羽鳥さんだった。
「おはようございます。お待ちしてました」
「おはようございます。よろしくお願いします」
「昨日より、すっきりした顔されてますね」
「えっ!?」
思わず、自分の頬に手をやりそうになった。
「そんなに疲れて見えてましたか、昨日」
「疲れてるっていうか」
羽鳥さんは少し言葉を探して、
「無理して笑ってる感じが、ちょっとだけ」
気づかれていたのか。
それでも昨日、この人は何も訊かなかった。
「昨日、寄り道したんです」
「へえ。横浜、見て回られたんですか」
「観覧車に乗りました。一人で」
羽鳥さんが、一瞬止まった。
それから笑った。
「一人でですか。いいですね」
それだけだった。
何をしていたのかも、なぜ一人だったのかも訊かれなかった。
八階に着いて、扉が開いた。
会議室には久保田さんがもういた。
資料を配って席に着くと、十時ちょうど。
「それでは、お願いします」
私は表紙をめくって、一枚目を出した。
三つの軸だけが並んだページ。
「昨日、どこを選ぶ基準か、というお話をいただきました。まずそこからご説明します」
久保田さんの目が、ページに落ちた。
化粧品の売上構成比。
近隣に競合の路面店があるかどうか。
四十代以上のお客様の比率。
三つを説明して、次のページで、それが重なった店舗を出した。
「三十二店舗になります」
「三十二ね」
「はい」
「多くも少なくもないな」
久保田さんは黙って、二枚を行ったり来たりしていた。
昨日と同じ声の高さだったけれど、昨日ほど心臓の位置が上がらなかった。
そこから先は、細かいところを一つずつ潰していった。
什器の納品は八月の最終週。
店舗への案内文は先方で作って、うちは什器の組み立て手順の紙を同梱する。
テスターの交換分は毎月十日までに本部へまとめて送る。
羽鳥さんが実施の期間を九月から十一月の三か月で確認して……
「初月の数字を見て判断しましょう」
「もし十月の頭でいけそうだったら、店舗を足せますか」
久保田さんが訊いた。
昨日なら、持ち帰らせてくださいと言っていたと思う。
でも私は、昨日の夜に三十二の外側の店舗まで一度並べていた。
「什器の追加は、二週間いただければ出せます。次の候補が十五店舗ありますので、そちらを先に押さえておきます」
「じゃあ、その十五も一覧でください。今日中じゃなくていいので」
「来週の頭にお送りします」
「わかりました。進めましょう。うちのほうで稟議を上げます」
久保田さんが資料を閉じたのを確認して、膝の上で手を握った。
三時にも四時にも起きなかった。
カーテンの隙間から光が入っていて、それを見ながら少しのあいだ天井を見ていた。
昨日の朝と同じ姿勢なのに、体の感じが違う。
起き上がってカーテンを開けると、隣のビルの壁が朝の色をしていた。
お腹が空いていた。
顔を洗って着替えて一階に下りると、朝食の会場は思ったより人がいた。
スーツの人が多い。
みんな一人で座って、テレビのニュースを見ながら食べている。
トレーを取って、列に並ぶ。
ご飯と味噌汁。
卵焼きに、ウインナーが二本。
ひじきの煮物を少し……
サラダを取ろうとして、ドレッシングが三種類あって迷った。
「わっ、シュウマイ」
いちばん奥のバットに、小さいシウマイが並んでいた。
朝からシウマイがあるのはこの街のホテルらしいな、と思って二つ取った。
席に座って、味噌汁から飲む。
普通の味だけど、少しだけほっとする。
ホテルの朝ごはんの味。
ご飯を食べて、卵焼きを食べて、シウマイを一つ食べた。
温かくて、少し甘い。
もう一つも食べた。
全部食べ終わってから、昨日の朝のサンドイッチを一口しか食べられなかったことを思い出す。
今日は、トレーの上に何も残っていない。
それだけのことだったけれど、私は少しだけいい気分になった。
部屋に戻って、歯を磨いて、化粧をした。
ファンデーションのノリが良い。
コンシーラーは今日は少しでよかった。
九時にホテルを出ると、駅のほうのコンビニで資料を三部刷った。
ちゃんと順番が入れ替わっているのを確認して、クリアファイルに入れる。
外に出ると、今日もすでに暑い。
昨日と同じ道を歩き、昨日と同じビルに入って受付の電話をかけた。
降りてきたのは、また羽鳥さんだった。
「おはようございます。お待ちしてました」
「おはようございます。よろしくお願いします」
「昨日より、すっきりした顔されてますね」
「えっ!?」
思わず、自分の頬に手をやりそうになった。
「そんなに疲れて見えてましたか、昨日」
「疲れてるっていうか」
羽鳥さんは少し言葉を探して、
「無理して笑ってる感じが、ちょっとだけ」
気づかれていたのか。
それでも昨日、この人は何も訊かなかった。
「昨日、寄り道したんです」
「へえ。横浜、見て回られたんですか」
「観覧車に乗りました。一人で」
羽鳥さんが、一瞬止まった。
それから笑った。
「一人でですか。いいですね」
それだけだった。
何をしていたのかも、なぜ一人だったのかも訊かれなかった。
八階に着いて、扉が開いた。
会議室には久保田さんがもういた。
資料を配って席に着くと、十時ちょうど。
「それでは、お願いします」
私は表紙をめくって、一枚目を出した。
三つの軸だけが並んだページ。
「昨日、どこを選ぶ基準か、というお話をいただきました。まずそこからご説明します」
久保田さんの目が、ページに落ちた。
化粧品の売上構成比。
近隣に競合の路面店があるかどうか。
四十代以上のお客様の比率。
三つを説明して、次のページで、それが重なった店舗を出した。
「三十二店舗になります」
「三十二ね」
「はい」
「多くも少なくもないな」
久保田さんは黙って、二枚を行ったり来たりしていた。
昨日と同じ声の高さだったけれど、昨日ほど心臓の位置が上がらなかった。
そこから先は、細かいところを一つずつ潰していった。
什器の納品は八月の最終週。
店舗への案内文は先方で作って、うちは什器の組み立て手順の紙を同梱する。
テスターの交換分は毎月十日までに本部へまとめて送る。
羽鳥さんが実施の期間を九月から十一月の三か月で確認して……
「初月の数字を見て判断しましょう」
「もし十月の頭でいけそうだったら、店舗を足せますか」
久保田さんが訊いた。
昨日なら、持ち帰らせてくださいと言っていたと思う。
でも私は、昨日の夜に三十二の外側の店舗まで一度並べていた。
「什器の追加は、二週間いただければ出せます。次の候補が十五店舗ありますので、そちらを先に押さえておきます」
「じゃあ、その十五も一覧でください。今日中じゃなくていいので」
「来週の頭にお送りします」
「わかりました。進めましょう。うちのほうで稟議を上げます」
久保田さんが資料を閉じたのを確認して、膝の上で手を握った。



