「え? えぇ、もちろん。白花様の部屋ですから」
白花の問いに不思議そうに答えた。
「…ありがとうございます」
「いえ…? 夕飯になれば、女中達が呼びにきますから。それまではお寛ぎください」
未だ不思議そうにしながらそっと襖を閉める朔。
広い部屋だが、持て余してしまい部屋の隅にちょこんと座った。
軽い風呂敷を隣に置くと、ただぼんやりと全体を見渡した。
しかし、それだけでは時間が余り過ぎる。
(私…どうしたら…そうだ)
これまで、暇な時間がなかった為潰し方が分からなかった。
ふと思い立つと、部屋から出て女中達が忙しそうにする音を頼りに場所を探り当てた。
彼女達がいるのは、台所。
声をかけようとしたその瞬間。
「そういえば白花様、笑ってなかったわねぇ」
ドクッ、と心臓が大きく脈打つ。
後頭部がじわりと痛んだ。
(やっぱり私…どこへ行っても…)
手伝おうとした気持ちすら恥ずかしくなった。
大人しく部屋で存在を消してしまおう、そう一歩踏み出したらもう一人の女中があっけらかんと言った。
「何言ってんの。アンタが二度も名前を聞くからでしょ。あーもー、あれは感じ悪いよっ。せっかくアタシらのようなしわくちゃの婆婆達に上品に挨拶してくれたのにっ」
ガチャガチャと水仕事をしながら、ぶっきらぼうに言った。
(嘘…私のいないところで、そんな風におっしゃって下さるなんて…)
桜庭家にいた時も、陰口はよく耳にした。
『愛想がない』『気味が悪い』『何を考えてるか分からない』
散々な言われようだった。
けれど、その言葉は一つも聞こえてこなかった。

