能面令嬢の契約結婚


「いつまで休んでいるの! 早く仕事に戻りなさいっ」
「…はい」

頬が熱を持ち、腕にも力が入らない。
弱々しくノロノロと体を起こすと、紅葉が土を蹴り上げて白花の顔を目掛けた。

「きゃっ…」
「お姉様? どうして私の足袋が泥まみれなの?」

白花の手元近くにある足袋は、一度地面に着いた事で洗う前よりも汚れていた。
それが気に入らない紅葉が見下しながら言うと白花の喉から、小さな声が漏れた。

「あらあら。紅葉ったら、品がなくてよ? ゴミに話しかけるなんて…」
「…あら、ごめんなさいお母様」

いたぶるのに飽きた梅が紅葉にそう言えば、紅葉は物足りなさそうにしながらも梅にニコッと笑いかけた。
立ち去ろうとした時、梅が白花目掛けて扇子を叩きつけた。

「っ…!」
「汚物に触れた物なんてもう使えないわ。旦那様に新しいのを買ってもらわないと」
「あっ! お母様だけズルいわ。それなら、私も女学校へ行く用の新しい着物を買っていただこうかしら」

二人の会話だけ聞いていると、仲睦まじい親子の会話。
それが余計に、この家の異常さを示していた。
こんな事をされても、白花はいつもと変わらなかった。
梅が投げ捨てた扇子と泥だらけになった足袋を拾い上げていると、小さな人影が白花の視界を暗くした。