「お祖父様…失礼致します」
文机の引き出しに手をかけると、ぼそりと呟いた。
引き出しは三段あり、中身はほとんどなかった。
けれど、一番下の段には硯と筆と一冊の書物。
そして、産みの母・松子が使っていた櫛が入っていた。
「まさか…お母様のモノもあるなんて…」
母の記憶は、五歳で止まっている。
通り魔に命を奪われた――そう祖父から聞かされて育った。
母を失ったあの日から、この家は少しずつ変わってしまった。
「お祖父様、守ってくれていたのね…」
櫛をぎゅっと握りしめた。
祖父が生前の頃、松子の遺品はきちんと保管されていた。
けれど、祖父が亡くなってすぐに桜花に梅と紅葉が暮らすようになり、松子の遺品は次々に処分された。
これから住む家に、昔の女の物があることに梅が嫌悪感を示したのだ。
気付けば、母の遺品は一つずつ消えていった。
そして、祖父を失った日から、白花は一度も笑えなくなった。

