「若、着替えと薬をお持ちしました」
「ああ」
すぐにヨウさんが水桶と軟膏、そして着替えをもってやってきた。
「まずは着替えな。体まで火傷しちまう」
「こ、ここここで……?」
「ヨウ、外に出な。俺は何も見えねえから、安心しろ」
火狩様は私に背を向けるでもなく、堂々と胡座をかいたままこちらを向いている。
目が見えないとはいえ、男の人が真正面にいる状況で着物を脱ぐなんて、恥ずかしすぎる。
「手伝おうか?」
「——っ!!」
からかうような低い声に、私は顔を真っ赤にして慌てて首を横に振った。
震える指先で濡れた帯を解く。肌に張り付いていた冷たい布を肌着ごと滑り落とすと、衣擦れの音が、静まり返った部屋にやけに大きく響き渡った。
(恥ずかしい……)
火狩様には見えていない。それは頭ではわかっているのに……
肌を隠すように腕を交差させる姿すら、見られているような錯覚をしてしまう。
「はは、心臓の音まで聞こえてきそうだ」
「ひゃう……」
不意に落とされた言葉に、私はビクッと肩を跳ねさせた。
「こんなんで緊張してちゃあなあ。アンタ、俺の妻なんだぜ? それ以上のことも——」
「ひゃああっ!」
私は逃げるように距離を取る。そうだ、妻になるっていうのは、「そういう」ことなのだ。
(って、冗談だよね。私たちはあくまで契約結婚だもんね……)
からからと笑う火狩様を見て、すぐに揶揄われていると気づく。私は唇を尖らせながら、ヨウさんが用意してくれた新しい着物——見事な赤い椿が描かれた、美しい絹の小袖へと袖を通した。
「うん、別嬪だ」
「……」
「見えねえくせにってか? ちゃんとわかるぜ。子ウサギみたいにぶるってるアンタの姿もな」
火狩様は楽しそうに笑うと、スッと大きな掌を差し出した。
「おいで。怪我を治療しねえとな」
火狩様は私の手首に巻いていた手巾を素早く解き、氷水で冷やした清潔な布を、赤く腫れた肌にそっと当てた。
「ひゃっ……」
「熱い……痛かっただろう?」
火狩様の大きな手が、私の細い腕を固定するようにそっと握る。
視力のない彼は、私の肌の熱と腫れを指先の感覚だけで確かめながら、軟膏を塗り込んでくれた。武骨な指が私の肌を滑るたび、痛みよりも、彼に触れられているという緊張で心臓がうるさく跳ねてしまう。
「よく耐えた、アンタは立派な女だ」
褒められるたび、胸の奥がざわつく。耐えたのではない、異を唱える口を持たないだけなのに。
それなのに彼は、そんな私を褒めて、労わってくれる。
(私、この人に相応しい女性に、なりたい……)
この時初めて、私は火狩様の顔をしっかりと見た。少し長い黒髪、白い肌。瞳は見えないけれど、整った鼻梁から、美しい顔をしているのだとわかる。
こんな美しく強い人の後ろに立てるような、立派な人間になれるのだろうか。
「ああ」
すぐにヨウさんが水桶と軟膏、そして着替えをもってやってきた。
「まずは着替えな。体まで火傷しちまう」
「こ、ここここで……?」
「ヨウ、外に出な。俺は何も見えねえから、安心しろ」
火狩様は私に背を向けるでもなく、堂々と胡座をかいたままこちらを向いている。
目が見えないとはいえ、男の人が真正面にいる状況で着物を脱ぐなんて、恥ずかしすぎる。
「手伝おうか?」
「——っ!!」
からかうような低い声に、私は顔を真っ赤にして慌てて首を横に振った。
震える指先で濡れた帯を解く。肌に張り付いていた冷たい布を肌着ごと滑り落とすと、衣擦れの音が、静まり返った部屋にやけに大きく響き渡った。
(恥ずかしい……)
火狩様には見えていない。それは頭ではわかっているのに……
肌を隠すように腕を交差させる姿すら、見られているような錯覚をしてしまう。
「はは、心臓の音まで聞こえてきそうだ」
「ひゃう……」
不意に落とされた言葉に、私はビクッと肩を跳ねさせた。
「こんなんで緊張してちゃあなあ。アンタ、俺の妻なんだぜ? それ以上のことも——」
「ひゃああっ!」
私は逃げるように距離を取る。そうだ、妻になるっていうのは、「そういう」ことなのだ。
(って、冗談だよね。私たちはあくまで契約結婚だもんね……)
からからと笑う火狩様を見て、すぐに揶揄われていると気づく。私は唇を尖らせながら、ヨウさんが用意してくれた新しい着物——見事な赤い椿が描かれた、美しい絹の小袖へと袖を通した。
「うん、別嬪だ」
「……」
「見えねえくせにってか? ちゃんとわかるぜ。子ウサギみたいにぶるってるアンタの姿もな」
火狩様は楽しそうに笑うと、スッと大きな掌を差し出した。
「おいで。怪我を治療しねえとな」
火狩様は私の手首に巻いていた手巾を素早く解き、氷水で冷やした清潔な布を、赤く腫れた肌にそっと当てた。
「ひゃっ……」
「熱い……痛かっただろう?」
火狩様の大きな手が、私の細い腕を固定するようにそっと握る。
視力のない彼は、私の肌の熱と腫れを指先の感覚だけで確かめながら、軟膏を塗り込んでくれた。武骨な指が私の肌を滑るたび、痛みよりも、彼に触れられているという緊張で心臓がうるさく跳ねてしまう。
「よく耐えた、アンタは立派な女だ」
褒められるたび、胸の奥がざわつく。耐えたのではない、異を唱える口を持たないだけなのに。
それなのに彼は、そんな私を褒めて、労わってくれる。
(私、この人に相応しい女性に、なりたい……)
この時初めて、私は火狩様の顔をしっかりと見た。少し長い黒髪、白い肌。瞳は見えないけれど、整った鼻梁から、美しい顔をしているのだとわかる。
こんな美しく強い人の後ろに立てるような、立派な人間になれるのだろうか。

