冷たく、硬い床の上で意識が浮上した。
ズキズキと割れるように痛む頭を揺らし、ゆっくりと目を開ける。
手足を太い荒縄で縛り上げられ、ひんやりとした土の上に転がされていた。鼻を突く古いカビと埃の匂い。うっすらと差す月明かりが今の場所を教えてくれる。
(ここ……実家の蔵だ……)
先ほどの出来事が脳裏に蘇る。私と瓜二つの姿に化粧を施した苺と、冷たく嗤う深月さん。『入れ替わる』と苺は言っていた。
そうだ、私は彼らの罠にはまってしまったのだ。浅ましい嫉妬に身を焦がして……そして、囚われてしまった。
「——本当に、燃やすんですか……?」
ふと、蔵の扉の向こうから、震えるような声が聞こえてきた。少し震えているが聞き馴染みのある声——母だ。
「別に追い出すだけでいいのに……殺すまでしなくても……」
「何を今更怯えているんですか、お義母さん」
深月さんの冷酷な声が、薄い壁越しに響く。
「極道の若頭を騙すってのがどういうことか分かってるでしょう。邪魔者は、完璧に消し去らなきゃならない——おい、油を撒け」
「へい」
男たちの低い声と共に、どくどくと液体の注がれる音が響いた。
彼らは本気だ。私を殺して、入れ替わりの作戦を完璧に遂行する気なのだ。
「——っ!」
乾いた喉から必死に声を絞り出そうとした瞬間、パチパチ、と何かを弾くような不気味な音が耳に届いた。
同時に、蔵の分厚い扉の隙間から、ゆらゆらと赤い光が漏れ始める。
喉を焼くような黒い煙が、じわじわと隙間から這い込んできた。
「げほっ、けほっ……っ」
縛られた体で、必死に床を這いずり、声を上げようとする。けれど、容赦なく蔵の中に充満していく煙に激しく咽せ返り、目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
周囲の温度が急激に上がり、肌をジリジリと焦がすような熱気が迫ってきた。
(火狩様……っ)
真っ先に脳裏に浮かんだのは、あの人の顔だった。
苺は今頃、私のふりをしてあの人の腕の中にいるのだろうか。
(そんなの嫌! 私は、私は火狩様のことが——好きだから!)
ここにきて、私は自分の本心に確信が持てた。彼を助けたい。でもそれ以上に彼が欲しい。
あの陽だまりと煙草の匂いがする温かい胸の中を、誰にも譲りたくない。
「かかか、かが……かがり、さま……っ!」
掠れた声を張り上げようとするが、無情にも煙は蔵の中を黒く染め上げ、肺が焼け付くように痛む。
(ごめんなさい、火狩様……)
意識が急速に泥の底へと沈んでいく。
死が、迫っている。
あの暗い絶望の日々から私を掬い上げてくれた、怖くて、そしてとても優しい人。
(……貴方の元に、帰りたかった)
熱と煙に巻かれ、パチパチと木材が爆ぜる音だけがやけに大きく響く中。
私の意識はゆっくりと、深い暗闇の中へと落ちていった。
ズキズキと割れるように痛む頭を揺らし、ゆっくりと目を開ける。
手足を太い荒縄で縛り上げられ、ひんやりとした土の上に転がされていた。鼻を突く古いカビと埃の匂い。うっすらと差す月明かりが今の場所を教えてくれる。
(ここ……実家の蔵だ……)
先ほどの出来事が脳裏に蘇る。私と瓜二つの姿に化粧を施した苺と、冷たく嗤う深月さん。『入れ替わる』と苺は言っていた。
そうだ、私は彼らの罠にはまってしまったのだ。浅ましい嫉妬に身を焦がして……そして、囚われてしまった。
「——本当に、燃やすんですか……?」
ふと、蔵の扉の向こうから、震えるような声が聞こえてきた。少し震えているが聞き馴染みのある声——母だ。
「別に追い出すだけでいいのに……殺すまでしなくても……」
「何を今更怯えているんですか、お義母さん」
深月さんの冷酷な声が、薄い壁越しに響く。
「極道の若頭を騙すってのがどういうことか分かってるでしょう。邪魔者は、完璧に消し去らなきゃならない——おい、油を撒け」
「へい」
男たちの低い声と共に、どくどくと液体の注がれる音が響いた。
彼らは本気だ。私を殺して、入れ替わりの作戦を完璧に遂行する気なのだ。
「——っ!」
乾いた喉から必死に声を絞り出そうとした瞬間、パチパチ、と何かを弾くような不気味な音が耳に届いた。
同時に、蔵の分厚い扉の隙間から、ゆらゆらと赤い光が漏れ始める。
喉を焼くような黒い煙が、じわじわと隙間から這い込んできた。
「げほっ、けほっ……っ」
縛られた体で、必死に床を這いずり、声を上げようとする。けれど、容赦なく蔵の中に充満していく煙に激しく咽せ返り、目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
周囲の温度が急激に上がり、肌をジリジリと焦がすような熱気が迫ってきた。
(火狩様……っ)
真っ先に脳裏に浮かんだのは、あの人の顔だった。
苺は今頃、私のふりをしてあの人の腕の中にいるのだろうか。
(そんなの嫌! 私は、私は火狩様のことが——好きだから!)
ここにきて、私は自分の本心に確信が持てた。彼を助けたい。でもそれ以上に彼が欲しい。
あの陽だまりと煙草の匂いがする温かい胸の中を、誰にも譲りたくない。
「かかか、かが……かがり、さま……っ!」
掠れた声を張り上げようとするが、無情にも煙は蔵の中を黒く染め上げ、肺が焼け付くように痛む。
(ごめんなさい、火狩様……)
意識が急速に泥の底へと沈んでいく。
死が、迫っている。
あの暗い絶望の日々から私を掬い上げてくれた、怖くて、そしてとても優しい人。
(……貴方の元に、帰りたかった)
熱と煙に巻かれ、パチパチと木材が爆ぜる音だけがやけに大きく響く中。
私の意識はゆっくりと、深い暗闇の中へと落ちていった。

