虐げられたクチナシの乙女は極道の瞳になる

「——というわけで、盲の王様と唖の姫君は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし、ってね」

 帝都の隅にある雁金家の古びた応接間には、甘すぎる香水の匂いが漂っていた。
 椅子に深く腰掛けた深月は、手に持った扇子でパチン、と膝を叩いた。薄暗い室内で、蛇のような彼の瞳だけがぎらぎらと輝いている。
 向かいに座る母の滝と苺は、深月の口から語られた白泉組本家での出来事を聞き、信じられないものを見るように目を見開いていた。

「な……なんだって? 蓬が、白泉組の幹部連中を平伏させたって言うのかい!?」
「ええ。それだけじゃありませんよ。兄貴はあの子を『俺の目だ』と豪語し、美しい絹の小袖を着せて、それはそれは大事に囲っている。今や本家でも、誰もあの義姉さんには頭が上がらない」
「ふざけないでよっ!!」

 苺が顔を真っ赤にして立ち上がる。怒りのあまり美しい顔が歪んでいる。

「あいつが、極道の若頭に溺愛されてる!? 冗談じゃないわ! あんなのただのクチナシの人形のくせに!」

 姉は自分の手に入らないほどの贅沢と権力を手に入れ、幸せに暮らしている。苺にとって、それは自分の物を奪われたのと同じことだった。

「本当は、私がそこにいるべきだったのに……! 泥棒! 泥棒だわ!」

 肩で息をして喚き散らす苺を見て、深月はくつくつと喉の奥で笑った。
 人形のような姉に比べると、深月にとっては苺の様がよほど魅力的に見える。と言っても、御しやすい女だ、という意味でだが。

「俺も同意見だよ。あんな喋ることもできない出来損ないが若頭の隣にいるなんて、組の面汚しだ。あそこにはもっと……そう、君のように美しくて、華やかなお嬢さんが座るべきだ」

 甘い毒のような言葉に、苺の動きがピタリと止まる。

「兄貴は目が見えない。というのに、あの『目』があると、俺も少しばかり動きづらくてね」

 深月は苺の顔をじっと見つめた。
 蓬とうり二つの顔だが、表情は自信に満ちている。己の無知を知らぬ、浅はかで、なんとも可愛い顔。

「……『目』を、入れ替えよう」

 深月は苺の耳元に顔を寄せ、悪魔のように甘く囁いた。

「君は白泉組の姐になり、俺は厄介な兄貴の目を塞ぐことができる。共犯関係にあるのだから、俺が次代当主になった暁には優遇することを約束しよう」
「私と蓬おねえが入れ替わるってこと……? でも、どうやって?」

 悪魔の囁きに、母の滝はさすがに狼狽えていたが、苺は即座に頷いた。深月はひどく不気味に笑うと、苺の耳元でささやいた。

「それはね——」