朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 ある春の日、深朱(みあけ)は奥から呼び出された。

「この(ねえ)さんの突き出しは、あんたもよう見ておきなんし」

 そう言われ、張見世の格子の陰へ(ひざまず)かされた。

 何度も見てきた突き出しの道中だった。
 けれど、その日ばかりは違って見えた。

 いずれ自分も、あのように歩くのだと。
 だから深朱(みあけ)は特に見ておくべきものなのだと、言われた。

 それなのに深朱(みあけ)の腹の底には、晴れがましさより先に、冷たいものが沈んでいた。

 紅籬楼(こうりろう)は、大華通(たいかどおり)から一本奥へ入った見世だ。
 客の目に触れぬよう陰にいても、隙間から斜め向こうの大華通(たいかどおり)(のぞ)くことができる。

 昼の光を集めたように、そこだけが明るい。

 今まさに、その明るみの中を、他所(よそ)の大見世の花魁(おいらん)が通っていく。
 桜の花びらが舞い散る中、屋号紋の入った裾を幾重にも引いていた。
 内八文字で、ゆるりと大通りを割ってゆく。

 見物も、遣り手も、若衆(わかしゅ)も。
 皆、その花魁(おいらん)のために道を開けていた。

 傍らには肩貸しが付き従う。
 先では見世の若衆(わかしゅ)が金棒を打ち鳴らしていた。
 しゃん、しゃん、と春の通りが鳴る。

 仲之町(なかのちょう)の大通りすべてが、あの花魁(おいらん)のものになっていた。

 あれこそが、右京朱籬廓(うきょうしゅりかく)の名を背負う遊女なのだ。

 幼い深朱(みあけ)は怖くなった。
 あれほど飾られ、あれほど見られ、それでも笑うことを求められる。

 深朱(みあけ)にとって、花とは自然に咲くものではない。

 水面下では、幾人もの手が根を縛る。
 茎を(たわ)め、花びらの向きまで整える。
 そのうえで、咲いているように見せるのだ。

 自分の力で、美しく開いた花であるかのように。

 いずれ、自分もあの花魁(おいらん)ほどに仕立てられることを思うと、(きも)が冷えた。

 この色街は、女を食いものにして、寄って(たか)って花に仕立て上げる。

 遣り手婆は、もう自分の身体では(ぜに)を取れない。
 (しわ)の奥へ胡粉(おしろい)を塗り込み、肥え()えた息で若い娘の肌を()でる。
 自分が若かったら、どんどん御開帳(かいちょう)して売るんだがねえ。
 そう言いたげな目で、自分が売れぬものを、勝手に娘たちの身体から搾り取る。

 若衆は、最初から売れるものを持たない。
 客にもなれず、楼主(ろうしゅ)にもなれず、女の銭で飯を食う。

 髪結いも、小間物屋も、薬売りも同じだ。
 櫛を売り、紅を売り、効くか判らぬ薬を売る。
 花を咲かせるふりをして、花になる前の若い娘へ手を伸ばす。

 そういう場所なのだと、深朱(みあけ)はもう判って来ていた。