朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 見世は深朱(みあけ)に惜しみなく手をかけた。

 飯も衣も、芸の師匠も、仰ぐべき(ねえ)やも。
 全て同じ年頃の、()げちょろ禿(かむろ)よりは良いものを与えられた。

 いずれ人の目を()く、たっぷりとした黒髪に育てるためだ。
 肩へ重く流れ、灯りを受けて艶を成し、男の視線を絡め取る髪に。

 その代わり(しつけ)折檻(せっかん)も、他の禿(かむろ)よりずっと厳しかった。
 小さな中見世が大見世に並ぶには、一人の娘を大輪の花に仕立て上げる(ほか)なかったのだ。

 深朱(みあけ)は、七つで引込禿(ひっこみかむろ)となった。
 (ねえ)さまたちが見世の外へ出る時は、その裾を持たされ、仕草を覚えさせられた。

 引手(ひきて)茶屋(ぢゃや)へ呼ばれた時。
 馴染み客へ顔を出す時。
 あるいは、近くの用足しに出る時でさえ。
 重い衣の端を支えながら歩く。

 前を行く姐さまの髪には十本以上もの(かんざし)が揺れ、帯には金糸が光る。
 深朱(みあけ)の頭にも、びらびら(かんざし)()されていた。
 けれど、いくら飾られても、もう判って(しま)っていた。

 これは美しさの順ではない。
 値が張る順に並べられた(だけ)の、ただの虚栄なのだ。

 この頃には、禿たちとも仲良くなっていた。

 狐拳では、深朱(みあけ)は狐を出すのが(うま)かった。
 細い指を耳に見立て、袖口へ半ば隠す。

 負けた禿(かむろ)が悔しがるたび、雑魚寝部屋は笑いに揺れた。

「また狐だんすか」
「狐に化かされる方が悪いだんす」

 そう返していた、この頃はまだ知らなかった。
 まさか本当に、己が妖狐へ見初められる娘になろうとは。