朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 程なくして辿り着いたのは、美しい大華通(たいかどおり)から一本奥へ入った(なか)見世(みせ)だった。

 (おお)見世(みせ)ほどの格はない。
 かといって、(はした)女郎(じょろう)ばかりを並べる格下の見世でもない。
 肩肘張らぬ気楽さを売りに、一頻(ひとしき)り繁盛している。

 その道筋には、煮売りの湯気が立っている。
 団子屋からは、焦げた醤油の匂いが漂っていた。
 夜になれば小店の灯りが、遊女たちの入れられた籠のような格子の隙間まで届く。

 客は馴染みの遊女に通う。
 ついでに煮物で小腹を満たし、小料理店で酒を一合引っかけて帰る。
 そういう気安い遊びの裏通りだった。

 その並びにあって、紅籬楼(こうりろう)は気位ばかりが高い見世だった。
 有名花魁(おいらん)を華々しく輩出する夢物語を、鼻から捨てきれずにいた。

 深朱(みあけ)を抱えたその(まじ)り見世には、格に届かぬ野心ばかりが(よど)んでいる。
 花魁を呼び出すほどの上客を抱える、引手(ひきて)茶屋(ぢゃや)との付き合いも始まっていた。

 中見世から大見世へ。
 あと一歩で格も上がろうかという頃だった。

 そこへ、いちばん年若く、器量もよい深朱(みあけ)が転がり込んできた。
 ただ、それ(だけ)のことだった。