朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 岸辺には、子どもが二人いた。

 一人は人間(ひと)の子に見えた。
 もう一人は額に小さな角を一本生やしている。
 二人は同じ竹籠を抱え、舟を見つけると目を丸くした。

九郎助(くろすけ)さまが、人間(ひと)を連れて来た」
人間(ひと)だけじゃないだろ。何だか焦げた匂いがする」

 角のある子が言った。
 珠璃(しゅり)は思わず、襦袢(じゅばん)の袖を握る。

 (おけ)()せまがいの折檻(せっかん)で焼かれた喉。
 物の()の瘴気。
 朱籬廓(しゅりかく)伽羅(きゃら)の煙。

 自分では判らない匂いが、身体に染みているのかもしれない。

「散れ。見世物ではあらぬ」

 九郎助(くろすけ)が言い渡すと、子どもたちは慌てて頭を下げた。
 叱られ慣れているのだろう。
 怯えるというより、甘えの混じった素直さだった。

 里の道は石畳ではなかった。
 踏むたび、ふかふかした土が沈む。
 素足の裏に、また泥がついた。

 珠璃(しゅり)は少し戸惑った。
 (くるわ)では、石畳でない小道でさえ硬く固められている。
 遊女の裾を汚さぬように。
 客の足許を(つまず)かせぬように。

 ここでは、土が土のままだった。

 家々は、(わら)と木と土で作られている。
 屋根に(わら)を葺いた家もあった。
 白い壁に、貝殻を埋め込んだ家もある。

 軒先では、人間(ひと)の女が洗い物をしていた。
 その隣で、鱗のある手をした女が水瓶を持ち上げている。
 井戸端では、猫耳の童が人間(ひと)の老人に叱られていた。

「尻尾で水を跳ねるなと言っただろう」
「だって、勝手に動くんだもの」

 老人が叱ると、童は猫耳を伏せた。

 周りの者は目尻を下げ、笑いながら見ている。
 人間(ひと)も、(あやかし)も、分け(へだ)てなく笑い合っている。