朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 廊下の向こうから、衣()れの音が荒く近付いてくる。
 先刻(さっき)去ったはずの遣り手婆が、もう取って返して来ていた。

 その後ろには若衆(わかしゅ)が二人。
 深朱(みあけ)が立ち上がるより早く、両脇から腕を掴まれる。

 痛い、と言う暇もない。
 肩が抜けるほど強く引かれ、膝が畳を擦って切れた。
 じわりと血が噴き出るのが判った。足がついていかない。

 それでも若衆(わかしゅ)は歩みを緩めず、深朱の身体を廊下へ引き()り出した。

「逃げられちゃ困るからね」

 遣り手婆は、何でもないことのように言った。

「三津田様のお目に留まった子だ。明日までに(きず)でもついたら見世の大損になる。――なァに、寝る場所がちょいと変わる(だけ)さ」

 若衆(わかしゅ)たちは、深朱(みあけ)梯子(はしご)段へ向かわせた。
 一段目で足がもつれる。
 爪先が板を掻き、(かかと)が浮いた。
 腕を掴む手(だけ)で身体を吊られ、梯子(はしご)の角が踵に当たる。
 どん、と骨に響いた。

 二段、三段。
 降りているのではない。
 落ちる身体を、両側から無理やり運ばれている。

 座敷の賑わいが、段ごとに遠ざかる。
 紅扇(ねえ)さまの部屋も、筆も、鏡も、あっという間に上へ置き去りにされた。