朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 そこへ、客が足を止めた。

 妓夫(ぎゆう)(だい)に寄り、名を伝える様子が、深朱(みあけ)からも見えた。
 差し出された金子(きんす)が盆の上へ置かれ、乾いた音を立てる。
 銭の話が済むと、牛太郎が格子前へ身を乗り出した。

「あいあい、お揚がりーィ!」

 格子前で牛太郎が張り上げる。
 奥からも、廊からも、同じ言葉が返った。

「お揚がりィ」
「お揚がりだよ」
「二階へ通しなんしーィ!」

 呼ばれるのは、遊女の名ではなく、買われたという事実だった。
 その一言で、身体に値のついたことだけが、往来へ高らかに知らされる。

 格子の内に並べられていた(ねえ)やの一人が、(あきら)めたようにすっと立ち上がる。
 それが、買われた合図の「お揚がり」だった。

 紅扇は、歩けば道を従える。
 人々は息を呑み、名を知り、姿を仰ぐ。

 けれど先輩新造(しんぞう)は、格子越しに比較されて選ばれる。

 隣の遊女より目を引くか。
 隣の遊女より若く見えるか。
 隣の遊女より、今夜の銭に見合うか。

 同じ(ねえ)やなのに。
 置かれる場所一つで、女は花にもなり、品にもなる。

 そのことが、深朱(みあけ)にはひどく悲しかった。