朱籬姫の嫁入り 〜売られた花魁は、大妖狐の番として囲われる〜

 鬼灯(ほおずき)の根は西河岸(かし)に扱いがあると、紅扇(べにおうぎ)(ねえ)さまは言っていた。

 深朱(みあけ)は袂に小銭を忍ばせ、露店と露店の間を縫うように歩いた。
 火事の用心に、処々(ところどころ)水を溜めた手桶が配されている。

 西河岸(かし)は、大華通(たいかどおり)の華やぎとは違う匂いだった。
 伽羅(きゃら)からは格の落ちる桂皮や丁字の匂いだ。
 それから乾いた薬草。古い油。鼻の奥へ残る、湿った土の匂い。

 西河岸(かし)に並ぶ品は、香も紅も髪油も、どこか薄く、どこか古い。
 大華通(たいかどおり)を歩く(ねえ)さまたちが使うものとは違う、安物だった。

 この辺りへ買い物に来るのは、安く買われる遊女たちだ。

 裾の擦り切れた小袖。
 (まだら)になった襟元の胡粉(おしろい)
 色の()せた髪飾り。

 それでも女たちは、今夜も客の前へ出るしかないのだ。
 効くかどうかも判じがたい品物に、なけなしの銭を払いながら。
 ――売られるために。

 深朱(みあけ)は、その姿に何とはなしの怖さを覚えた。
 飾りが粗末になるだけで、女はこんなにも早く、花から遠ざけられるのだ。

 草売りは、錆びた火鉢の脇に座っていた。

 (ざる)には干した根、竹の皮にくるまれた種、色の褪せた薬草が並んでいる。
 その端に、赤い鬼灯(ほおずき)が二つ三つ転がっていた。

 その老婆は、鬼灯(ほおずき)を見ている深朱(みあけ)へ、(いわ)くありげな目を細めた。

鬼灯(ほおずき)かい。小さい手で買いに来るには(いや)な品だねェ。誰かの遣いかい」
「…… (ねえ)さまの」
「ふうん。(ねえ)さまね」

 老婆はそれ以上聞かなかった。
 (ざる)の奥から干からびた根を二つ三つ選び、乾いた経木(きょうぎ)へくるんで寄越す。

 まさか深朱(みあけ)素人家(しもたや)と勘違いした筈もないが、聞かないことに慣れている者の顔だった。