君と綴る未来 一余命僅かな彼女と一


「……何がだよ?」
 目を鋭く尖らせ、声を低くドスを効かせ、威嚇するようにあからさまに腕を組んで、不機嫌なオーラをまとう。
 人間は怯むと、自身を防衛する為に攻撃的になる。
 学校での態度を振り返り、己の弱さを思い知らされる。……何の罰ゲームなんだよ、これ?

「物語が好き。そんな単調な理由で同じスタートを切って、一緒に書いてきた! webサイトに投稿しよう、文学賞に応募しよう。そう言い出したのは俺で、直樹は俺に付き合うぐらいのスタンスだったのに、あっという間に俺を越していった。全部、直樹が先をいっていた! 公募を初めて一年で、たった中二で、文学賞の三次までいった!選評で、キャラクター性をしっかり整えたら受賞の可能性があるとまで言わしめた! ……一次も通らない、俺なんかと違って!」

 掠れた声が消えたかと思えば、激しい息切れと咳き込みに顔を歪める。
 時折、こちらを伺うような視線を向けては逸らす姿に、初めて声を張り上げ感情を出したのだろうと感じ取れた。

「……そんなの、ただのリップサービスだろ? 落選って結果は変わらねーんだよ」
 組んでいた腕を解き、頭を軽く掻いて見せる。
 表情を和らげて、声を軽くすれば、あの頃の俺に戻せる。……だから、そんな顔すんなよ。頼むから。
 激しく鳴る心臓の悲鳴を無視して、ただ言葉だけを紡いでいく。

「閲覧数や小説賞の通過率、それがイコール実力じゃないって何度も言ったよな? その時の流行、読者に興味を持たせるテーマ、離脱されないプロット、読者が望む展開。俺は落選をキッカケに、それに合わせて書き方を変えただけ。小説賞に応募するということは、趣味から商業になる可能性があることなんだよ。だから、出版社が求めている話を書く必要があるってこと。小説賞は実力者を選ぶ大賞じゃねぇ。実力と、売れる作品を書ける作家を選ぶ大賞なんだよ。……俺は、お前の書く作品が……」
「だから、そうゆうところがムカつくって言ってんだよっ!」

 枯れた声が放つ怒声とピリついた雰囲気に、気付けば俺は一歩引いてしまっていた。

「俺と直樹じゃ、実力が全然違うんだよ! 誰も思いつかないテーマ作りに、それに沿った物語の展開。意外な展開で締められる結末に度肝を抜かれ、だけどそこに主人公の成長を感じさせてくる。あんなの絶対、俺じゃ書けないし、発想すらないし! 前に一回、直樹のネタ帳からアイデアをもらったことあっただろ? テーマさえ面白ければ、俺にも書けると思ってたんだよ! ……だけどプロットを作ってみれば、どこまでも平坦で、テーマは面白いけど、それが活かされていない凡作しか出来上がらない! ……そう選評で返ってくるのが見通せるぐらいの、駄作だった! 直樹には分からないんだよっ! どんだけ頭捻ってもどこかで見たことあるような話しか考えられなくて、文体も平凡で面白みもなくて、ただ埋もれていく奴の気持ちなんか! 頑張っても、努力しても、結果が出ずにくすぶっている人間の気持ちなんか!」

 俯き、ゼェゼェと息を切らす達也の姿に、一歩下がってしまった俺の体は前方に進んでいた。
 砂を踏む音が鳴った途端に、こいつの膝についていた手を上がり見境なく振ってきやがる。
 ……近付くな。そういう意味なのだろうと、足跡を後ろに付けた。

「……勉強だって、そうだった。直樹も俺も、テストとか、成績とか、狙える高校も同じぐらいだったけど、実際は全然違ったんだよ。俺は塾行って、家でも勉強して、睡眠時間減らして執筆に当ててたんだよ。成績下がると、親怒るし。家庭教師呼ぶとか、言われてたし。……だけど直樹は違うよな? 親の干渉とかないし、授業聞いてたら分かるとか言って勉強しないし。俺がやっと一作書き終わるぐらいには、三作書いて応募してたよな? 実力だけじゃなくて、筆まで速いなんて反則だろ? 全てにおいて直樹が前を進んでて、俺はその背中を追いかける。どんどんと小さくなる背中を、ひたすら。スタートラインは同じだったのに、なんでだよぉ……」

 いつしか夕日は水平線の元で光り、二つの影は長く伸びていた。海風は強く、浜辺に打ち付ける波が強くなり、容赦なく飛沫が俺達に降り注ぐ。
 それが達也の心のようで、ずっと蓄積してきた気持ちのようで、俺はあえてそれを浴び続けていた。

「だから直樹のネタ帳、クラスのみんなに見せたんだよ! 家庭環境に恵まれなくて、でも選ばれた才能があって、それを理解して無条件に応援出来る友達が居て。……そんなの小説の主人公みたいじゃん! だから、壊してやりたかった! 成功が約束された主人公に理解者は居ないって、直樹を傷付けてやりたかった!」

 俯き、しゃくり上げる姿に感じるのは、怒りや憐れみじゃねぇ。
 主人公……。自分には全く縁がないと思っていた単語に、どこかで納得し始める自分がいた。

「……そうかもしれないな。自分を立ち直らせてくれた彼女が、もう少しで死ぬ運命なんて。本当、出来過ぎてるよな……」
 分かっていたあいつの運命を口にした途端、鼻がツンとし、目までも痛くなってきやがる。
 体に降りかかった潮の匂いがキツくて、目に海水まで飛んできて、本当に嫌になる。