「ごめんね、もう大丈夫だから」
窓より見える白浜の海を眺めている俺に、こいつは病室より声をかけてきた。
「……ああ」
俺はこいつの顔を見ることが出来ずに、逸らしてしまう。いつもは帽子を被っているが、今は夏。一人の時は、暑くて脱いでいるのだろう。
それにマスクもせずにこいつに接近するなんて、何を考えているんだ俺は。バカヤロウ。
だからこそ。
「……悪かった」
心から、そう呟いていた。
「ううん。普通は気遣わなくていいことだから、ごめんね。……でも女性の部屋はノックしないとだめだよ?」
ムスッとした表情を浮かべる、こいつに。
「言い返す言葉もねぇな……。全く、その通りです」
頭をわしゃわしゃ、掻いてしまう。
「……他の子にやっちゃだめだよ?」
スッと背中を向けるその姿に。「やらねーよ! んな相手いねーし!」と、語尾を強めて全力で否定する。
「そ、それより見たか? 一次選考?」
「え、うそ! 出たの!」
「ああ、確認してみろよ」
こいつはパソコンを立ち上げ、名前を一つずつ確認していく。
「あった、私の名前!」
パソコンを食い入るように見たこいつは、両手を口にやっていた。
「千作品以上のエントリーから、一次通過は百二十一作品。通過率約一割、よくやったな」
「……うん」
通過者の名前を見つめたこいつは、小さく頷く。
こいつの考えは分かっている。
共に名前を残している通過者が、強者だという現実だ。
プロ作家の名前、他の文学賞で最終まで通過した作品、複数の作品を一次選考に残した作家も居る。そこから這い上がらないと、受賞は叶わない。それが、書籍化作家になることなのだろう。
果てしなく遠く、誰でも叶えることのできるわけもない、選ばれしき者のみが辿り着く栄光。
彼女はそんな茨の道を、突き進んでいかなければならない。
「しっかしよ、別に俺には気を使わなくて良いんじゃねー?」
暑そうな帽子としっかり描かれた眉に、思わずそう声を漏らす。
「え、やだよ。本当はファンデとかも塗りたいぐらいだしー。禁止だけど……」
「はあ? 別に、どーでもいいだろ?」
「もー。分かってないな」
ぶすっとした表情が、マスク越しでも伝わってくる。
何怒ってんだ? 化粧するにも体力いるだろうに?



