「……なあ、一つ聞きてーんだけどよ?」
「ん?」
「どーして俺が、須藤翼だと気付いた? 」
「えっ?」
肩をピクッとさせたこいつは、今度は振り向くことはない。
まあ、散々過去のことに触れるなムーブを繰り広げてたからよ、こいつがこうなってもおかしくねーんだけどよ。
「だってよ、高一の時の課題である小論文で気付いたって追いかけて来たけど、文章なんて小説の文体と違ぇし、いくらなんでもムリがあんだろ?」
「あ……、えーと。ヒミツ!」
「はぁー!」
「直樹くんだって私にヒミツにしてたことあったじゃない。だから、これは私の!」
口元に人差し指を立て、シィーとポーズを取るこいつ。
……まあ、良いだろう。って、チョレーな俺!
「あのね、直樹くんにお願いがあるの。いいかな?」
「あ?」
「目の前に来て?」
「は? ジャマだろ?」
「いいから」
「なんだよ?」
ほらな、こうやって簡単にこいつにペースに巻き込まれていく。
こいつが言うことなど皆目見当もつかねー俺は、車椅子に座っているこいつの前にしゃがみ込む。
「へへ、ありがとう。……あのね」
「なんだよ?」
「あの物語の題名、直樹くんが考えてくれない?」
唐突に、とんでもないことを言い出した。
「俺! いやいやいや、本気か!」
題名は作品そのものを表すもの。当たり前だが、安易に名称出来るものではなかった。
「お願い! だってあれは、二人で書いた物語だよ!」
「バカか? 俺は何もしてないって言ってんだろ?」
「お願い……。直樹くん……」
「……候補は出すが、選ぶのはお前だからな?」
こいつの潤ませた目に、思わずそう答えてしまった。本当に敵わない。こいつには。
「ありがとう!」
桃色の花びらがふわふわと舞う中での、この笑顔。桜より美しい、その姿に。
「もう一周見回るぞ!」
俺はこいつの背後に周り、車椅子を押す。
「どんな題名がいいとか、あんのか?」
「直樹くんがあの物語に相応しいと思うのが良いな」
「……物語に相応しい……か」
俺は車椅子を押す手を止めたかと思えば、こいつの前に回り込む。
「何?」
「あの話は、俺の物語だと言っていたよな?」
「うん。直樹くんの幼少期、小学生中学生頃、高校に入学しての現在。そして私が思い描いた未来の直樹くんを、最後に書いたの」
その言葉に決まった。俺の中での、あの小説の題名が。
それを聞いたこいつは、ふわっとした笑みを浮かべ華を舞わせる。
俺はこの美しい笑顔を、一生忘れないだろう。



