君と綴る未来 一余命僅かな彼女と一

「……なあ」
「うん?」
「俺さ、大学受験しようと思うんだ」
「え!」
 パッとこっちを振り向くこいつの頭をグイッと戻し、桜の方に戻す。
 いちいち顔を向けねーと話せないのか、こいつは?
「すごい! 何学部?」
「……一応、文学部だな」
「文学! ……あ!」
「別にそうゆうのじゃねーし! 国語の教員免許取得や、出版社に就職とか色々な道があんだよ!」
「そっか。……すごいね、ちゃんと考えているんだ」
「別に、考えているだけ! だけどな」
 目を輝かせてこちらを見つめるこいつに前を見ろと、無理矢理前を向かせる。
 まさかこんなに興味持ってくれるなんて思わなかった。喜んでくれるなんて。
 こいつも病気が進行しなかったら、文学について学びたいと大学受験を考えていたらしい。小説執筆と勉強を両立させており、学校では成績上位者としてテストが終わる度に騒がれる存在だった。
 こいつの成績なら、特待生などの制度を受けれたかもしれないのに。こんな有能な奴が。理不尽だ、この世の中は全てが。
 言い表せられない気持ちに憤りを感じてしまうが、こいつはそんなこと一切表に出さない。「小説家になった俺の話が読みたいなー」と明るい口ぶりだ。
 こいつは。誰も小説家になるなんて言ってねーだろ? お前と違って、俺は研ぎ澄まされた感性も、文才も、心の温かみもない、凡人なんだからよ。
 だけどお前と共に過ごしていると、これだけは変わっているような気がするんだよな。心の温かみだけは。

 あの日。過去の傷を話せた日、俺は父親と向き合った。大学で文学の勉強をさせてくださいと、頭を下げた。奨学金とバイトで学費と生活費を賄えないかと計算してみたが、俺はこいつと違って頭が悪い。特待生なんて狙えねーし、学費と生活費を賄う為に働いていたらとてもじゃないほど勉強なんて出来ないだろう。
 だからこそ気付く。俺はまだ、親に養われているガキだということに。
 だからこそ、頭を下げた。勉強をさせて欲しいと。

 何をする気だ? 無駄な金だと言い放たれる覚悟をしたが、返ってきた言葉は「金の心配はするな」の一言だった。
 俺の考えを何一つ聞いてくれない姿に正直落胆の思いはあったが、否定しなかった。それだけで充分だと、自分に言い聞かせることにした。

「お父さん。きっと直樹くんが頑張りたいこと、分かってるんだよ」
「はあ? んなわけ、ねーだろ」
「何か、その時言われなかった?」
「まあ。金のことは考えなくていい、みたいな……」
 それを口にした途端、胸が温かなものが溢れるような感覚が俺を包む。そっか、大学資金について即答出来るということは、進学のことを既に考えてくれていたんだな。
 俺はそんなことにも気付かないほどの、ガキだった。