「それから俺らは毎日毎日、小説のことばっかだった。周りはスポ少だ、ゲームだって言ってんのに、プロット相談して、読み合ってアドバイスして、ひたすらに書いた。互いの家に、放課後の教室、あの浜辺で風に吹かれてノートが吹き飛ばされて追いかけたりして、バッカだよなぁ」
アイツと出会った小三の春から。今思い起こせば、あの頃が一番楽しかったんだろうな。
ただ書くのが面白くて、良い作品を書きたくて、好きな話を思う存分書く。
執筆って、そうゆうもんだったよな。
「小五になったら俺がスマホを買い与えられて、小説投稿サイトとか見つけて、俺が投稿しようと誘ったんだ。まあまあ読まれるようになって、SNSとかでアカウント作ったらまあ仲間とかできちまって、そいつらが公募に挑戦してるとか言ってたからよ、その気になっちまってなぁ」
小五の夏にはすっかりその気になって、スマホと共に買い与えられたパソコンで、年齢制限のない公募に片っ端から応募しまくった。
まあ、当然ながら一次選考すら通らなかった。今考えると当たり前で、カテゴリーエラーの0次選考落ちってやつだっただろう。
小六でそれに気付き、自分が影響受けた小説と書いている作風をみていき、俺たちが目指すのは青春文学賞だとようやく行き着いた。
その読みは当たり、小六の夏には一次選考欄に須藤翼の名前が載り、思わず二人で抱き合ったりした。
だけど、そんな甘い世界じゃねぇ。
一次には残るが、二次には上がれない、二回目の落選に、次だと意気込んでいた時、達也に異変が起きた。
「中学一年の五月だったな。達也は文章が書けなくなった。少し休むべきだと何も言わなかったら、夏休み明けにもう書けないって言って俺に受賞の夢を託してきた。達也はバカ真面目な性格でよ、だいぶ追い詰められてたみたいだから、分かったと返事していた。だけど達也は今までと変わりなく俺の作品を読んでアドバイスをしてくれてた。……だけどよ、段々とズレたアドバイスしてくるようになったんだよ。ご都合主義みたいな展開とか、本筋とズレたテーマを付け加えたらどうかとか。それは違うんじゃねーかと達也の考えを否定したんだ。そしたら……」
この先のことは思い出す度に、胸がチリチリと痛んで仕方がねぇ。
誰にも話さなかった。俺の人生での、二度目の裏切り。
信じている相手に突き放されるのはもうこりごりだってのに、また起きた。
だから胸の奥に鍵かけて、絶対に開かないと決めていたのによ。
だけどこいつには、目の前にいるこいつには聞いてほしくて、俺は封印していたあの日のことを、自ら話し始めた。
「中学二年の夏。……あいつ、俺の執筆ノートをクラス中に見せたんだ。当然、クラス中で痛い奴だと散々言われ笑われたよ。しかも投稿サイトまで、ありえねーよな? だからアカウントごと削除したんだよ。逃げるには、これしかねーからって。んでよ、なんであんなことしたんだって聞いたら、完全な開き直り。だからよ、もう誰も信じねーと思った。人間なんかくだらねぇ、友情だ仲間だ、全部引っくるめて全てな。俺に声掛けてくるやつ全て敵だ。そう思って生きてきた。……だからあの日、『もう書くな』、『目障り』と言って本当に悪かった……。あれは完全な八つ当たりだったんだ。俺のせいで病状が悪化したんだよな? 本当に、悪かった」
目を閉じて、こいつに頭を下げる。
謝って済まされる話じゃねぇし、進行してしまった病状は戻らねぇだろう。
だけどよ、俺にはこれしかできなくて、ただ謝ることしかできなくて。
「ううん、違うよ。夏休みは元々治療する約束だから入院していたの。藤城くんは関係ないよ」
こいつは首を横に振り、否定してくれる。
しかし、精神的に落ちた時に病状は進行しやすいと俺は知ってる。だから、やは、ら俺のせいだった。
「去年の、夏休みもか?」
「うん。手術と治療を受けていたの」
「二学期から、急に学校に来なくなったのも」
「ずっと避けてもらっていたんだけど、抗がん剤治療を受ける局面まできてしまってね。だから……ね、時間が過ぎたら学校に戻れるようにと、先生は留学だってクラスのみんなに話すって言ってくれて」
こいつは直接的には言わねぇが、おそらく髪を気にして学校に通えなかったのだとう。
うっかり引っかけウィッグがズレてしまったら、何かのはずみで落としてしまったら。
ソワソワと髪ばかり触っている姿から、何となく感じ取れた。
治療を受け、髪さえ伸びれば復学と思っていたようだが、病魔はそんなこいつを容赦なく蝕んでいったのか。



