速く! 速く! これがあいつと会える、最後のチャンスかもしれねぇ。
桜の並木道を抜ければクリスマスツリーとイルミネーションにより彩られた街が出迎えてきやがって、すれ違う奴らは賑わっていたが、んなもん眼中になくひたすらに走り抜けていく。
いつもは、どーでも良いだろと思いつつ苛立ちが湧き立っていたが、今は本心から思う。
本当にどうでもいい。だって俺は……。
がむしゃらに進むと懐かしい建物が見えてきて一瞬足の動きが停滞するが、冷てぇ頭を掻き上げ、投稿写真と照らし合わせ階層に目星をつける。
同時にあいつの状況を思い知った俺は、もう一度自身に問う。
本当に良いのか? 辛い現実に向き合う覚悟は出来ているのか?
ムリならやめろ。引き返せ。
走っている間に、頭の中を駆け巡っていた言葉。
俺はそんな考えを振り切り、足を前へと進めていく。
何も変わらない正面玄関前に立った俺は雪で濡れた頭を同じく濡れた上着で拭き、そのままシャツ一枚で歩き出す。
現在も正面玄関の解錠時間は六時までのようで、ギリギリだったと思いつつドアの前に立つと自動に開いてくれる。
途端に漂う、病院特有の匂い。
それは一瞬でガキの頃の自分に戻してきて、どうにも気分が悪ぃ。
最後にここに来たのも、母親が死んだ十二月だったしな。
『須藤翼さん』
『私に小説の書き方を教えてください』
『藤城くんは、どうして小説を書き始めたの?』
『藤城くん、発見っ!』
だけどよ、鈴を転がす可憐な声が俺の中でこだましている。
凛とした表情、華を舞わせる笑顔、時折いたずらっ子のように子どもっぽくなり、こっちの毒を抜き調子狂わせてきやがる。
会いたい、声が聞きたい。あいつは今どうしているんだ? 頼む、謝らせてくれ。
そんな思いを抱えながら、病棟に続く階段をひたすらに登って行く。
呼吸も足も限界なんかとっくに越しているが、そんなのもう知らねぇ。
気力だけで目星を付けた階まで登っていった俺は、病棟の共有スペースに辿り着く。
そこにはテーブルと椅子が配置されており、そして外の景色を一望出来るデケェ窓。そして俺の身長より高いと思われるクリスマスツリーが、チカチカと光っていた。
そんなツリーと窓からの景色を眺めるのは、点滴に繋がれた人。
椅子に座る背中はあまりにも小さく、雪を眺める顔はガラス越しに反射して見えた。その表情があまりにも儚く、マスク越しでも分かるほど彼女は。
そんなあいつの元に息を整えつつ近付いていくと、俺も同様に反射しガラス越しに目が合った。
「……え?」
少し掠れた声を出して振り返ってきたのは、水色のパジャマにピンクのカーデガンを羽織り、毛糸の帽子を被った女性。
見間違える程痩せ細った、吉永未来だった。



